過去ログ - 幼女とトロール
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962: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/12/14(月) 21:11:05.27 ID:jGgpJsLto




 ガタゴトと、馬車が行く。

 本部を出て二週が経った。王都の南にある小さな町を出てからは三日。だけど、すでに目的地の村の姿が遠くに見えて来ていた。

 懐かしいな、って思う気持ちと怖い気持ちと切ない、悲しい気持ちが絡み合って湧いてきて、少しだけ胸が詰まる。

でも、私はここに帰って来たい、って、そう思った。竜娘ちゃんのことやお姉さんと勇者様と姫ちゃんを見ていたら、

どうしても思い出さないわけにはいかなかったんだ。

 「あの山、懐かしいね」

不意に妖精さんがそう言うので、私は荷台の奥にいた彼女を振り返る。

妖精さんはその膝を、三日間、起きている間はずっとシクシク涙を流し、すっかり泣き疲れてしまっている零号ちゃんの枕にしてあげていた。

「洪水の跡も畑に戻ってるな」

トロールさんが私の傍らでそう言った。

 本部の庭で巡検隊の慰労会兼、竜娘ちゃん親子の歓迎会をやった日の翌日、

私は忙しいところ無理を言って、お姉さんや魔道士さん、十六号さん達に集まってもらった。

 そこで、零号ちゃんは泣きながら、自分が殺した十五号さんのことをみんなに謝った。

私に話してくれたように、謝るのが怖かったこと、謝らないままでいるのも怖かったことも全部全部話した。

 みんな呆気に取られている中で、零号ちゃんに声を掛けたのは、他でもない魔道士さんだった。魔道士さんは零号ちゃんに聞いた。

「お前、十六号を何度救った?」

「え?」

と涙ながらにそう声をあげた零号ちゃんに、

「盗賊団の事件を含めて、お前は十六号を二回助けた。十六号だけじゃない。あの日あそこいた連中は全員お前に助けられた。

 基礎構文の一件じゃ、他の連中を庇ってあのバカ剣士の奥義魔法を最前列で受け止めて被害を抑えたそうじゃないか」

と噛みしめるように言い、やおら、柔らかい笑顔を作って零号ちゃんの頭を優しく撫で付けた。

無表情なところ多少なくなってきたけど、私は魔道士さんがあんなに優しい顔をするのは初めて見たような気がする。

「十五号のことは、残念だった。だが、お前がそんなに思ってくれているんなら俺達はお前を責めたりしない。

 確かにお前は十五号を手に掛けたんだろう…それが取り返しの付かないことだったとしても、

 お前はそれ以上に、取り返しが付かなくなる前にその身を張って俺達を守ってくれた。

 お前が居なきゃ、ここにいるうちの何人が居なくなってたか分からない。

 俺達はお前に感謝こそしているが、もう恨んでなんていない」

魔道士さんは、ゆっくり、優しく、穏やかに零号ちゃんにそう言い含めると、最後に一言付け加えた。

「十五号のことを大切に思っていてくれてありがとう」

それを聞いた零号ちゃんが、姫ちゃん以上の大声で泣き出したのは言うまでもない。

それから零号ちゃんは、感極まった十六号さんと十八号ちゃんに抱きすくめられ、そばにしゃがみ込んだ十七号くんに頭を撫ぜられ、

肩を竦めて苦笑いする十四号さんと魔道士さん、お姉さんに見守られながら、寝入ってしまうまでそのままずっとずっと泣いていた。
 


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