1:第一部 『楽屋より』[saga]
2014/10/26(日) 01:36:37.62 ID:if64kfe6o
「昔話なんだけどね?」
「昔話ねえ」
「そういうのって嫌い?」
「あんまり好きじゃないけど、たまにはいいんじゃないかな、そういうのも」
「じゃあ手短に」
「頼むよ」
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:38:09.12 ID:if64kfe6o
「私、よく迷子になったの。
たとえば、買い物先の大型スーパーとか、縁日とか」
「まあ、そうだろうな」
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:39:22.54 ID:if64kfe6o
「オボエがないのにオボエがあるの?」
「うーん」
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:40:19.18 ID:if64kfe6o
「でも、こどもの私がそこにいるってことは、
私をそこに連れて来てくれた両親含む大人の人っていうのがいるわけだし、
こんな私を連れて来てくれるような親切な人たちなんだから、
私がいなくなれば、探そうとするじゃない?
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:41:32.15 ID:if64kfe6o
「どういうことだかわからない?」
「いや、わかるよ。
そうすれば目立つし見つかりやすい」
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:42:31.19 ID:if64kfe6o
「それとこれとは別でしょ?」
「そう言うなら別物ってことにするよ。それで目的地は?」
7:『バカみたい』[saga sage]
2014/10/26(日) 01:44:23.64 ID:if64kfe6o
ざけんじゃねえ。
あたしは椅子からずり落ちながら、書類の山を投げ散らした。
パンクがやりたかった。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:45:38.34 ID:if64kfe6o
おっさん(たぶん偉い人)は向かいに座り込んで書類と私の顔を交互に眺めた。
そして難しそうな顔をした。
「パンクがやりたいのかい」
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:46:43.03 ID:if64kfe6o
おっさんはどうしたものかと視線を宙に泳がせている。
そしてよし、と息を吐く。
「私の知り合いで、そういうのをやってるヤツがいるんだ。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:47:28.63 ID:if64kfe6o
これもなにかの縁だ。
どちらにせよ歌うことには変わりない。
アイドルをしてやろう。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:48:16.29 ID:if64kfe6o
けれど、すぐ後悔することになる。
書いて来いとつき出された書類が山ほどあったのだ。
こういうのを書くのは昔から苦手だった。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:49:17.50 ID:if64kfe6o
閉じていく視界。
最後に部屋の片隅にギターが見えた。
そういえばギターに触らなかったのなんて、久しぶりだな。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/10/26(日) 01:49:23.17 ID:6ZXSxebAO
これはもしやミリオンライブのジュリアさん?
14:>>13 うん[saga sage]
2014/10/26(日) 01:51:07.37 ID:if64kfe6o
この日、あたしは事務所に行かない。
ちゃんと事務所の名前をインターネットで調べたからだ。
アイドル事務所? なんかの間違いじゃないですか。
電話をかけて事はそれで終わり。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:53:31.13 ID:if64kfe6o
ゆっくり身を起こす。
財布をポケットに突っ込んで、近所のレンタルショップまで足を伸ばす。
人気ランキングの棚にあるCDを三冊借りて、家で聴く。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:56:50.93 ID:if64kfe6o
――ギターはないよ。
ぱきっとした、輪郭のある声だった。
性別不明。部屋中見回す。誰もいない。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:57:38.26 ID:if64kfe6o
――おかしな夢だった。
「よくわかるね」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:58:21.83 ID:if64kfe6o
――そう。
声が張りつめた。
透明な何かが部屋中にふくらんでいく。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 01:59:21.81 ID:if64kfe6o
「そんなにアイドルが気に食わないのかよ!」
自分の叫び声で飛び起きた。
前髪が汗でべったり張り付いている。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2014/10/26(日) 02:00:22.23 ID:if64kfe6o
あたしは灯りをつけて机に向かった。
そして積みあがっていた書類を次々にやっつけていく。
そうすることが、あたしの、あたしに対する唯一の反抗だった。
21:ここまで[saga sage]
2014/10/26(日) 02:01:17.49 ID:if64kfe6o
芸名ねえ。
口にする。
外はすでに明るみだしている。
471Res/280.25 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。