9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/11/26(水) 23:53:22.27 ID:incPBixuo
「どういたしまして」
僕も頭を下げた。高校生の男と多分中学生の少女が向かい合って頭を下げあっている光
景は傍から見たらずいぶんと滑稽な様子に見えたに違いない。
多分彼女も同じことを考えていたのだろう。頭を上げた彼女は再び恥かしそうに微笑ん
だ。
だいぶ緊張がほぐれてきた僕には、普通に彼女に話しかける余裕が戻って来たようだっ
た。
「君さ。昨日はずいぶん急いでいたみたいだけど、今日はこんなところで話していて学校
は平気なの?」
僕は昨日に引き続き普段よりもずいぶん早く家を出たから別に急ぐ必要はなかったけど、
彼女は昨日の同じ時間に慌しく僕とは反対側の方向に向うホームに向っていたはずだった。
「あ、はい。大丈夫です。昨日は課外活動で朝早く現地集合だったんです」
そこまで詳しくは聞いたつもりはなかったんだけど、彼女は自分の事情を話し出した。
「だから昨日は雨のせいで遅刻しちゃいそうで急いでたんですけど、普段ならもっと遅い
時間に登校してるんです。あとあたしの学校って昨日の集合場所とは反対の電車の方向だ
し」
では彼女の学校は僕と同じ方向にあるのだろう。
ここまでの僅かな会話でも僕は彼女との距離が縮まっていくのを感じた。
・・・・・・誤解するなよ。僕は改めて自分の心の中に警鐘を鳴らした。高校の同級生の志村
由里さんの時も今と同じような状況だったじゃないか。親しげに僕に擦り寄ってきた志村
の態度を誤解した僕はあの放課後に彼女に告白したのだ。
その時の彼女の返事やその時感じた喪失感はだいぶ時間が経った今でも胸の奥に小さな
痛みとして残っている。あの時志村さんは戸惑い、困ったような表情で僕に謝ったのだっ
た。
『何か誤解させちゃったとしたらごめん。あたし君のこと嫌いじゃないけど、本当に好き
なのは渋沢君なの』
しばらくして二人が付き合い出して、今ではいつも一緒にいる姿を見ることにも大分慣
れてきた。慣れざるを得なかった。渋沢は友だちの少ない僕にとって唯一の親友だったか
ら。
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