19: ◆FLVUV.9phY[sage]
2014/12/06(土) 16:49:57.51 ID:x2ueaAjJo
★◇
黒、青、桃。三色の頭が連れ立って進む。
時刻は夕前、場所は病院。
白く、清潔感の溢れる内装はどこか不自然で不気味な印象を突き付ける。
夏の色彩のように明るく眩しい内面を持つ少女は親友ともう一人を連れて、幼馴染の見舞いへと足を運ぶ。
幼馴染は神童という言葉が最も当て嵌まる弦楽器奏者だった。
そう、『だった』。入院の原因は利き腕への致命的な外傷。怪我の程度は骨折に留まらず、
神経への致命的な損傷も含まれている。つまりは、二度と楽器が弾けなくなるほどの重症患者だった。
ただ、実際には長くリハビリを続けることで日常生活に戻ることが出来る程度には回復の見込みのある疾患だ。
だけれど少年にとって楽器とは人生そのものだった。
彼という人物が生きた軌跡には片時も離れることなくそれが寄り添っていて、最早楽器とは体の一部ですらあった。
それが使えなくなるということは、
目が見えなくなることや音が聞こえなくなること、
声が出なくなること、匂いや味が分からなくなることと同義だった。
それほどまでに強く結びついていたものを失うことは、果してどれ程の絶望だろうか。
その深さは彼の幼馴染の美しい幹のような強さを持った少女にすら分からなかった。
だとするならば、彼女が知らず知らずのうちに地雷を踏み抜いたとしても然程驚くに値することではない。
つまるところ、絶望にかまけて当り散らされた。たったそれだけの簡単な出来事だ。
そんな簡単な八つ当たりを少女は重く受け止めすぎる。
だけれど、少女には一発逆転の手札なんてものは存在しない。
なれば、少女に出来ることは逃げることだけだった。
逃げて、涙を流すことだけが彼女に出来るたった一つの抵抗だった。
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