過去ログ - 速水奏「ルージュになりたい」
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9: ◆Freege5emM[saga]
2014/12/20(土) 22:04:36.23 ID:dlUov/GTo

●08

ある日事務所で、周子が机に大判の冊子を広げていた。

「あ、奏ちゃんじゃん!」
「それは、アルバムかしら?」
「そー! 見てみてっ、んーコレコレ。六歳のしゅーこちゃん、かわいーでしょ?」

周子が示した写真には、振袖姿のあどけない女の子が写っていた。
それから目を上げて、今の周子と並べてみる。

「周子は、こんな小さな頃から可愛かったのね」
「えへへ、照れちゃうじゃない! この頃のアタシの夢、なんだと思う?
 ウチの和菓子屋の看板娘だったんだー」
「いいわね、商売繁盛しそうよ」

冗談めかして言っていたが、周子は割と本気で照れていたようで、
そそくさとアルバムを閉じてしまった。惜しいことしたわ……

なんて思っていると、
“奏ちゃんの小さい頃はどうだった? 今度アルバム見せてよ! あたしだけとか恥ずかしーやん!”
と、私の昔の写真を披露するよう約束させられた。



「ま、こんな可愛かったあたしも、実家でヌクヌクしようとしたら追い出されて……
 いまや看板娘どころかアイドル……人生わかんないモンだよねー!」
「アイドルもある意味、看板娘みたいなものでしょう」
「まぁね♪ ……っと、実家といえば」

周子はアルバムをしまうと、アルバムよりもさらに大きな紙箱を机に乗せた。
和紙調の紙に包まれていて、屋号らしきくずし字が添えられている。

「じゃーん♪ 京都銘菓八つ橋だよー! 奏ちゃんも食べる? ウチの実家のだけど」
「ありがとう。いただくわ」

周子は自分のお土産だからか、凝った包装も遠慮無くバリバリと剥がした。
そしてずらりと並んだ半透明の包みの一つを、私に手渡してくる。

「あ、アンコ苦手だったりする? 一応、色んな味作ってるけど」
「いいえ、それをもらうわ。あんこが和菓子の王道でしょう」
「奏ちゃんったらわかってるじゃなーい! シューコちゃんは嬉しいよー」

生八ツ橋のやわらかい感触が、くちびるに、歯に、舌を覆ってくる。
手の中では小さくて軽かったのに、ほのかな香辛料の香りと、
黒餡特有のトゲがないしっかりとした甘さが、口内から私を占領していく。

この八つ橋と、あなたのくちびると、どちらがやわらかいかしら。



「んー、実家帰ってなかったから、なんだかんだでコレ食べるの久しぶりだな。
 いやー懐かしいわ。ちっちゃい頃から食べてたからねー」

気づけば、周子も八つ橋に舌鼓を打っていた。

今、私のくちびるに触れる柔らかさは、
私が知らなかった頃から、あなたを知ってる。



お菓子を羨ましがるなんて、私もどうかしているわね。


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