過去ログ - 速水奏「ルージュになりたい」
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8: ◆Freege5emM[saga]
2014/12/20(土) 22:01:51.07 ID:dlUov/GTo
●07

今日の締めくくりは、ダーツバーだった。
最後にここへ行くのは、最初から決めていた。

「奏ちゃん、ダーツに興味出てきたんだ♪ 嬉しいなー。手取り足取り教えちゃうから!」

ダーツは正直“いつかやってもいいかな”程度にしか思っていなかった。
でもこの間、周子と千奈美がダーツの話で盛り上がっていたのを見て、つい。

「へぇ、いいのかしら。私、自分で言うのもなんだけど、結構器用なんだから」
「いーよいーよ、シューコちゃんと勝負になるヒト、知り合いにほとんどいないんだもん。
 ダーツはやっぱり勝負だから、さ。あたしと同じくらい上手くなってくれたら、嬉しいな」

まずはフォームを覚えようか、と周子が私にダーツを握らせる。
ひんやりとした真鍮の温度。細いバレルに、金属的な硬さを感じる。

「それね、あたしのマイダーツ! 奏ちゃんだから、触らせてあげるんだよ?」
「なら、きっと上手く当たってくれるわね」



手を添えてもらったり、周子が右手を振ってフォームを見せてくれるのを見たり、
実際に投げてみたり。私は今日のなかで一番、この時を無心で楽しんでいた。
2メートルちょっと離れたダーツボードと、横に立つ周子の間で、無邪気に一喜一憂した。



「奏ちゃん、スジいいね。今まであたしが見た誰よりも、上達早いよ!」
「いや、たまたまトリプルリングに当たってしまったから……」

そろそろ帰らないといけない時間が近づいてきた頃、私は周子と勝負した。
カウントアップ――単純な点加算ゲームで、たまたま私が高得点なリングに連続して当てたものだから、
周子も本気になって、おかげで終わる頃には、かなり点差をつけられてしまった。



「奏ちゃんがこの調子だと、
 あたしの黄金の左を解放しなきゃいけなくなる日も近いかな……?」

周子は例のマイダーツを、今日はじめて左手の指に絡ませた。
ダーツボードを見据える目は、アイドルの仕事にも負けないぐらい真剣。
私は、真っ直ぐ引き結ばれた周子のくちびるに釘付けだった。

「あっ――」

不意に、周子の左腕が動き、ダーツが軽い音と共に中心円の赤い部分へ刺さった。

「どーよ? トリプルリングはともかく、調子よければブルも狙って当てちゃうんだぞ♪」

引き結ばれたくちびるが、会心の一投で解けて、屈託なく広げられた。



その夜、私はベッドに寝転んだまま自分のくちびるを指でなぞった。



くちびるが寂しいときはどうする?

実践してみたいけど、私一人ではできない。


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