43: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:36:15.70 ID:uP2qnu460
しかし、事実なのですから仕方がありません。
妾は永遠に友達を失い、そして……それは最初から居ないモノだったのです。
もう、彼女の御霊が人なのか人では無いのか、そもそも此の世に彼女の御霊はあるのか……御霊というモノ自体存在するのか……。
妾には何もわからなくなってしまいました。
44: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:38:05.57 ID:uP2qnu460
目の前には、小さな腰掛けが二つ、乱雑に置かれています。
チョット前まで、妾とチイちゃんが座っていたものでした。
戻ってきたのです。昼間、ボンヤリと座っていた軒先に……。
腰掛けの上にチョコンと置かれた、パッチワーク・キルト地のクッションは、まだチイちゃんの温かさを残しているヨウでした。
妾はしばらくの間、チイちゃんの存在を確かめるかのように、そのクッションを撫でておりました。
45: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:39:41.38 ID:uP2qnu460
老婆の目は色を失いくすんでいて、何も見えていない様子でした。
その盲いた二つの目の球で、いつまでも妾を見つめているのです。
妾は背筋に冷たいモノを感じ、足早にその場を立ち去りました。
老婆にチイちゃんの事を訪ねようか、一寸(すこし)迷いましたが……。
46: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:41:22.02 ID:uP2qnu460
本当に……彼女は、チイちゃんは……。
一体何者だったのでしょう……。
記憶を辿ってみても、そういえば、彼女の姿ナンゾ何処にも見当たらないのです。
齢三つの頃、母の手に引かれて歩いた時も……。
47: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:47:10.84 ID:uP2qnu460
もしかしたら、妾は、忘れてしまったのでしょうか。
チイちゃんという大切な存在を……覚えていたハズなのに、スッポリと記憶から抜け落ちるように、忘却の彼方へと飛ばしてしまったのでしょうか。
人で無いモノへと成った彼女を見て、全て脳髄から消し去ってしまったのでしょうか。
とっさに自分の名前と、住まいと、友人の名前と……思いつく限りの全ての情報を、妾の知ってる全ての事を、改めて思い返しました。
48: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:49:09.91 ID:uP2qnu460
町は落ち着いていて、それでいて活気があり、人々の笑顔で溢れておりました。
しかし妾の心は正反対に、ズブズブと深い沼に沈んでいくようでした。
全ての景色が灰色に見えます。
道行く人々の笑顔一つですら、妾を馬鹿にする顔に見えました。
店先で談笑する婦人の笑い声が、妾を嘲笑する声に聞こえました。
49: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:50:56.11 ID:uP2qnu460
そもそも……。
イッタイ此処は……。
……何処なのでしょうか……。
50: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:52:36.89 ID:uP2qnu460
……妾はチイちゃんと二人、此の場に居た訳なのですが。
いつ此処に来たのか、何故此処にいるのか、サッパリわかりません。
まるで此の場所、此の空間が、此の世のモノでは無いかのようで……。
51: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:54:25.73 ID:uP2qnu460
「覚えていないっていう事はネ、知っていてもドウって事無いって事さね」
男の声が聞こえました。
温かい、優しい声でした。
52: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:56:24.52 ID:uP2qnu460
「……ドウって事、無い?」
「そうさ。要らないから忘れるのさ」
「……要らない事は、無いでしょう」
53: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/01/18(日) 00:59:01.52 ID:uP2qnu460
「……つまり……チイちゃんの事も、この場所の事も……知っていてもドウって事無い……要らないからスッカリ忘れてしまった、ト……?」
「イヤ確かに。でっかいのは脳味噌もでっかいと見えるネ。良く出来たモノを持っている……」
「ハア……それは、ドウモ……」
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