14: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/01/16(金) 20:36:16.07 ID:6UJ3zAla0
「……どうして、プロデューサーだけ私が見えているんですか……?」
落ち着いて思考を整理する余裕が出来たのか、橘は客観的に現状を把握しようとしていた。
「そうだな、話せば長くなるんだが……僕はこういう状況には過去、何度か立ち会っていて……まぁ、経験者だから、とでも思っておいてくれ」
「……そうですか」
本当のことは言っていないが、嘘も言っていない。
それは橘も何となくわかってはいるだろう。
僕がなり損ないの吸血鬼で、その影響で恐らくは見えている……なんて余計な知識は橘には必要ない。
いくら人間的にしっかりしていようが、橘はまだ子供だ。
必要以上の情報を与えて混乱させることもあるまい。
「廿楽花。つづらばな。彼岸花の怪異だ。廿楽とは日本における苗字のひとつで、雅楽の集団を二十人で組織したことが由縁となっているそうだ。その名前に準じて、死人花、地獄花、幽霊花、天蓋花、剃刀花、捨子花、狐の松明、曼珠沙華、葉見ず花見ず……彼岸花は非常に多くの名前を持つ」
表現と語彙の多さに関しては世界一とも言われている日本でのみ起こりうる現象でもある。
だが多くの名前を持つ、ということは存在を稀釈している、と言い換えてもいい。
ひとつの対象に多くの名前がついている場合、どれが本当の名前なのか、外部が教えない限りは知り得ない者には絶対に知り得ない。
彼岸花を知らない人間に彼岸花の別名をすべて並べ、どれが本当の名前か、と聞いたところでわかる筈もないのと同じだ。
「廿楽花に行き遭った者は、最終的に名前を奪われ、廿楽花の名前のひとつとして成り代わられる。その結果、いずれ存在を確立出来なくなる」
「名前を……?」
「いいかありす。どんなものでも名前がなければ存在が出来ないんだ」
そう、この世に存在するあらゆる事象全てには名前がついている。
生物や無機物、吉事や悪事、どんな現象、災厄や汚泥にすらも名前は必ずある。
産まれてすらいない、名前もつけられていない赤子にすら、『胎児』という名詞はついている。
人間が認識できる、という条件こそつくが、この世界にある全てのものには名前があると言っていい。
とは言え、先述した通り名前なんてものは所詮、人間がつけたものだ。
人間が認識出来ないものでも存在し、未だ名前のついていないものもきっとあるのだろう。
人間そのものだって、元々は名前なんてものありはしなかったのだから。
だが逆を言えば、名前が存在しないものにはこの人間の住む世界に存在する権利がない、とも言える。
「このまま放っておくと……存在こそ消えないが、世界中の誰もがありすを知覚できなくなる」
「…………!」
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