17: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/01/16(金) 20:42:32.29 ID:6UJ3zAla0
006
個人を個人たらしめている要素の一つには、他人からの認識も含まれる。
人が永久に一人だけで生きていく生物でない以上、他の人間からの認識は必要不可欠だからだ。
名前を奪われると言うのならば。
『奪われそうな名前を、再び取り戻せばいい』。
橘ありすを、人々に刻めばいい。
「み、皆さん、私は橘ありすです! 僭越ながら歌わせていただきます!」
その辺にあったコンビニのドリンクケースを拝借し(無断借用とも言う)、橘の足元に事務所から引っ張ってきたジャンク同然のスピーカーを設置する。
衣装もないままに急造の簡易ステージにおけるゲリラライブ。
それが今の橘にと僕が考えた処方だった。
ほとんどの人はそこに橘がいることに気付いていない。
それでも何人かは見えているようで、足を止める人や視線を送り去って行く人もいる。
そう、何も世界中の僕以外に見えなくなっている訳じゃない。
橘が見えている僕を媒介に、どんどん人を増やせばいい。
「いいぞありすー! A!L!I!C!E!あ!り!す!」
「ちょっ、プロデューサー!」
「我慢しろ! 僕だって恥ずかしいんだ!」
これは嘘だ。
実は超楽しい。
プロデューサーの身として、ファンに混じって応援出来る機会はあまりないのだ。
少々はっちゃけすぎだが、今回に限ってはこれくらいが丁度いい。
ついでに言うと、恥ずかしがってる橘、超眼福。
「でっ、ではっ、行きます!」
スピーカーから音質の悪い音楽が流れ出す。それに相応し、名も知らない顔のない通りすがりの人々が何事かと意識を集める。
橘の姿が、声が、大多数に届かなくとも、機械音ならば誰にでも届く。
応援する僕と共に橘を誘導する一手としての道具だ。
上乗せして、もうひとつ。
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