過去ログ - [オリジナル] The Five Elements 〜New Contract Peach Warrior〜 
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6:名無しNIPPER[sage saga]
2015/02/14(土) 09:21:13.41 ID:638Opjkd0
 
 父が亡くなり、塞ぎ込んで公私共に暗黒の日々を送っていた俺。
 どうしてこうなったか…… 俺は弱い自分を憎んでいた。
 少なくとも俺以外の人々は悲しみを受け入れ乗り越え進んで行くのだ。
 誰にだってそういう側面があるのにも関わらず、それを知っていながら…… 俺は他の大多数の人間を、俺以外の全ての人間を憎んだ。
 道行く人々が皆幸せの絶頂にいて、不幸の「ふ」の字も存在しないと決め付け、行き場所のない焦りや不安、怒りを誰にでもぶつけていた。
 
 俺は俺を憎んでいた。弱さを憎んでいた。他の人間を憎んでいた。

 そして父も憎み始めていた。
 あんたが死ななければ、俺は……

 こういう負の感情がループして、俺を掻き乱していて、そうして俺は遂に感情を無理やり奥底に押し込んで沈めた。


――だけど、俺は彼女に救われた。


 そんなに面識もないのに、初めて出会ったあの時から彼女は最低な俺に手紙をくれた。何度も。
 たとえ俺が投げやりで乾燥して無感情な返事を出しても、彼女は長々と温かな想いをしたためて送り返してくれたのだ。
 
 いつしかそんな彼女に惹かれて、憧れて、感情を取り戻していった。
 彼女は俺に感情をくれた。


――そして俺は地元を飛び出した。


 あそこでは息が詰まって、過去に閉じ込められて、枯れ果てて死んでいくしかないのだろうと本気で思った。
 そういう衝動に駆られて、俺は家を飛び出した。


「――大宙(おおそら)学園という高校を受験することに決めました」


 いつかの彼女の手紙にそういう報告があった。
 それを見て、俺もそこへ行くことに決めた。
 彼女に会ってお礼を言いたい、彼女の近くにいたい…… 邪な理由かもしれないけど、そう思ったからだ。

 学園は俺の地元から遠く離れた場所にある。
 進学を理由に俺は地元を飛び出す決心をした。
 決心と同時に自分でも不思議に思えるほど…… そこへ入学したいという一心のみで別人になったかのように勉強の虫となっていた。
 
 やがて俺は幸いにも合格の切符を手にした。


――そして俺は彼女、木ノ下千春の家に居候させてもらうことになった。


 合格が決まって俺は学園の寮に入って寮生活をする予定だった。
 しかし入学までの間、準備に追われていた春休みのある日のこと。


「――木ノ下さんが、それなら家に来なさい…… と言ってくれたから――」


 と、母や祖父母から強制的な決定が下された。


 かつては名家として名を馳せていたらしい木ノ下家と俺の土門家はどういうわけか親戚でもないのに縁があって、家同士親しくしていた。
母や祖父母が学園に進学が決まったことを何かの機会に木ノ下家に話したらしく、木ノ下家も「偶然ながら娘も同じ学校に通うわけだし、家は学園に近いし、部屋もいらないほど余っているし、それなら是非……!」ということで、居候をほぼ強制的に決められてしまったのである。

 親に勝手に決められたことは少し不服に思ったけど、結果的にこうなったのは俺にとってこの上ない僥倖だった。
 彼女…… 千春と同じ学園に通えるだけでなく、同じ屋根の下で生活出来るなんて……! そんな風にいやらしい希望に胸を躍らせる自分が嫌になったが、この機会に灰色の生活から抜け出せるかもしれないと思って承諾してしまった。
 学園へ入学することを俺からは千春に言っていなかったので、彼女は大変驚いていたが居候も快く認めてくれた。
 
 千春の両親はどこか企業の社長らしく…… 国中、ひいては海外を飛び回っているようで一年中ほとんど家を空けているという状態みたいだ。
 だからこの豪邸には現在千春と彼女の祖父しかいない(祖母は大昔に亡くなったようだ)
 いつだか「あの娘に寂しい想いをさせてしまっているから――」ということを千春の両親がこぼしていたと家族が話していたのを小耳に挟んだ。
 恐らくそういうこともあって、人が多いほうが―― ということで俺を呼んでくれたのかもしれない…… まあ、これは「そうであって欲しい」という俺の勝手な思い込みだけど。
 ともかく、経済面でも生活面でも俺にとっては大変ありがたく、木ノ下家には頭が上がらない……


――そんなこんなで、高校生活が始まり今に至る。


 まだまだ慣れない生活で気苦労が絶えないけれど千春たちのおかげで色々と助けられている。
 千春と違って友達という友達はまだ出来ていないけれど、どうにかして灰色の日々から脱出できそうな予感がしていた。


 今までのお礼をちゃんと千春に伝えないと――


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