過去ログ - 佐久間まゆ「ご結婚おめでとうございます、プロデューサーさん」
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8: ◆Freege5emM[saga]
2015/03/01(日) 23:15:51.30 ID:OA5hrQ14o

●06

『そう言われちゃいますとね。泰葉さんなら、
 ちょっとだけ頼ってもいいかなって、まゆは思ってしまいますよ?』

アイドルとしての微笑みを貼り付けたまま、まゆさんの口から紡がれたのは、
まゆさんより私のほうが似合うであろう、おそるおそるな台詞。

『……まゆも恥ずかしいので、独り言だと思って聞き流してくださいね』

裏を返せば、それはせめて知るだけでも知っていて欲しい、という願い。



『一度も、面と向かって“好き”と言えなかったことが、心残りでしょうか。
 だって、まゆがプロデューサーさんにそれを言ってはいけませんもの』

まゆさんの表情は、アイドルとして完璧なままでした。
けれど、むしろそれで私はまゆさんに危うさを感じました。
いくら平気な顔をしていても、あのまゆさんが、思いを伝えられないままなのです。

『まゆとプロデューサーさんは、アイドルとプロデューサーですからね。
 仕事に障りが出て、ご迷惑になります。それは、本意ではありません』

向こうが透けて見えるほど薄い言葉です。
理屈の膜を引っ剥がしたくなる衝動を、私は奥歯を噛み締めて抑えます。



まゆさんは、もう辞めてしまうあのプロデューサーに担当してもらいたくて、
読者モデル辞めて、事務所を移ってきて、アイドルデビューしたんです。

そんな人が今更『アイドルとプロデューサーですからね』なんて理屈で、
自分の気持ちを押し隠すでしょうか。おかしな話です。



『大丈夫ですよ……物思いなら、まゆ、得意です♪』

愛想をふりまく表情をぶらさげたまま、上辺を飾った文句を並べ立てて、
そんなの――人間が人形の真似をするなんて、私が一番キライなことです。
そんな様子を、あのまゆさんが私に見せてしまっているのです。

しっかり者で物腰の柔らかいまゆさんが、
私を誤魔化すこともできず、私の神経を逆撫でしていることにも気が回っていません。
アイドルの仮面を守ることだけで必死になっています。

そんなギリギリまで追い詰められているのに、まゆさんは目を潤ませもしないのです。
まゆさんは、私が考えていたよりも重症でした。


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