過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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795: ◆JzBFpWM762
2015/11/24(火) 19:49:45.91 ID:A0S2go5Qo
 ……後ろから、もめるような話し声が聞こえてくる。バタバタと駆ける足音。

淡「サキっ、今度の私は一味違うよ!」

 まもなくして、明華と並び歩いている咲の前に後方から走って追い抜いてきた淡が躍り出る。

咲「あの……」

 短い別れから再会を果たした彼女は、先ほどまでなかったシャープなフォルムの赤縁眼鏡をかけ、自信にあふれた笑みを浮かべている。
 再三の接触にまた焼き直しかと困惑気味に口を開く咲。――しかし、すぐに思い知らされる。辟易した感を装って頑なに突き放そうとしても。本心では、単に彼女に怯えているだけで。
 眼鏡のブリッジを二本の指で押し上げてクイクイさせながら装っているようにも思える神妙な顔で切り出す淡の姿に、心が悲鳴をあげそうになっているのも、気づかないふりをしているだけなのだと。

淡「ねえサキ、私の話に興味ない?」

 どくんと嫌な高鳴りがした。そして、瞬時に悟る。目を背けようとするちっぽけな抵抗が虚しくなるほど自分は彼女の言葉を意識してしまっていて、その証拠に、極度の緊張をしらしめる断続的な鼓動が、思惑も何も無視して反響するように頭の中で鳴っている。不吉な存在感を示しながら。

咲「……はい?」

 とぼける返事をして、すぐさま平静を装う。だが、絶え間ない緊張が平常心を蝕む。砂の城に触れたように心の防波堤は脆くも崩れかけ機能を放棄しようとする。

淡「ああ、まだ私にはあんま興味ないよね。でも私って結構テルーと仲いいんだあ。――ねっ、私のするテルの話なら興味あるでしょ?」

咲「何を言ってるのか……」

 さっきまでのどこか軽かった雰囲気が遠い。あのやりとりは前座か様子見で機を窺っていたにすぎなかったのか。

淡「とぼけてもムダ。知らない仲じゃないどころか相当大きな存在だよね。たぶん、お互いに」

 また、胸の奥で唐突な鼓動がかき鳴らされる。嫌な音。見透かされているような、不安を煽られる感覚。どこまで知られていて、何をしようとしているのか。わからない。おそろしい。――そして、妬ましい。

咲「……もしそうだとして、何だっていうんですか……?」

淡「だからね? テルのこと教えてあげる。逆に、サキのこと、テルに教えてもいいし」

咲「…………」

 思考が錯綜する。ちかちかと視界が瞬く。興味なんてない――そうばっさりと切り捨ててしまいたい気持ちと裏腹に、混乱のるつぼに咲は囚われていた。
 気にならないはずがない。姉の近くにいて、姉と接して、姉の言葉を聞いて。代われるものなら代わりたい。そんな立場にいる彼女がうらやましくて、妬ましくて。
 踏み込む勇気もないのにおこがましい、同時にそんな気持ちを抱く自分を認めたくない自分がいて、怒りが込みあげそうになる。自分はもう充分恵まれているのに。不満なんて持ってないのに。
 何かを変えたいということは、何かが変わってしまうかもしれないということ。咲はその事実を深く意識に刻みつけて、今日まで自分をいましめてきた。



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