過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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12: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:30:23.11 ID:w4MVYybr0

 京太郎が答えようとしたところで、ソックが先に答えた。

「漫画だな。宇宙生物と耽美な高校生が戦う話。古い小説を原作にしてて面白いんだ。

 原作者のアサクラキチョウのほかの作品にも手を出してみたがなかなかよかった」

 ずいぶんと早い反応だった。ソックが京太郎をさえぎったのは嫌がらせのためではない。お前も興味がわいたのかという感動と、同族を見つけたかもしれない興奮である。自分の趣味の話になると口が軽くなる現象が、ソックに起きているのだ。

 ソックに先を越された京太郎が残念そうにしていると、アンヘルがこういった。

「あぁ、あれですか。ひとつ前はイナゴと戦っていましたよね。その前は巨大戦艦でしたっけ? マスター、マニアック漫画を読むんですね」

 とても驚いていた。京太郎は文化だとか、文明だとか言うものから離れて、体を動かすのが好きな野生児的な人間というような印象があったからである。

インドア趣味は一つも持っていないと、そんな先入観を持っていた。

 アンヘルがこういうと京太郎はこういった。

「入院しているとき暇すぎて、休憩所で読み始めたんだよ。それで、続きが気になってな、ソックに頼んで待合になかった最新作を買ってきてもらったんだ」

 言い訳をするような後ろめたさがあった。マンガを読むことが悪いと思っているわけではない。むしろよく読むほうだ。しかし、どうも中学まで運動部であったことと、妙に体が大きなことが重なってインドアな趣味があるというような話をすると意外だといわれることが多かった。それで話しにくく感じていたのである。

 京太郎が少し困っているとアンヘルがこういった。

「まぁ、そうでしたか。退屈はつらいですからね」

 実に実感がこもっていた。退屈だからといって現世に現れ。食べ物の匂いにつられて歩いているところを襲われて死に掛けたバカをよく知っていた。京太郎の暇つぶしなどかわいらしいものだった。


 話がいったん切れたところで、京太郎にソックが言った。

「では、今週の土曜日の予定は龍門渕でパーティーだな。たぶんだがお迎えが来るはずだから、それにあわせて動けばいい」

 少し急いでいるようだった。腕時計をちらちらと見て、そわそわしていた。アンヘルとソックの用事というのがあまりぐずぐずしていると困ってしまう用事だったからだ。時間がかかっても問題は少ないけれど、できるだけ早いほうがよかった。

 ソックの話を聞いた京太郎がこういった。

「二人はどうするんだ? 龍門渕には行かないの?」

自分の仲魔がソワソワしているくらいのことは京太郎にもよくわかる。彼女らが自分に反逆を企てないのと知っているので、一応予定だけを聞いて分かれるつもりなのだ。

 京太郎が不思議そうな顔をしているところでアンヘルが答えた。

「私たちは直接向かいます。道順もわかっていますからね。もっていきたいものもありますし」

アンヘルはにっこりと笑った。にっこり笑っているのに何か悪巧みをしている雰囲気があった。

 別れ際に京太郎は二人に聞いた。

「これだけのためにわざわざこんなところまで来たのか? 家に電話で済ませればいいのに」

 まったくたいした用事ではないのだ。それこそ電話一本入れれば済む話。京太郎の携帯電話はお亡くなりになっているけれども自宅にかければおそらく母が電話を取るだろう。

 すでに顔見知りになっているのだから、伝言くらいならば問題なかったはず。京太郎はそのことを少し疑問に思ったのだ。自分の仲魔が自分に忠誠を誓ってくれているのはいい。しかし、いちいち顔を見せなければならないほどのことではない。不思議だった。正直な感想なのだ。

 質問を受けてすぐにソックが答えた。

「買出しついでさ。いつの間にか今日の晩ごはんの材料と、明日の朝ごはんの材料がなくなっていてな。

 異常現象さ。神隠しにでもあったかな。なぁ、アンヘル」

 ソックにこめかみに青筋が浮かんでいた。完全に犯人はわかっているらしい。かなりいらだっているのは、今日の晩御飯どころか、明日の朝ごはんの材料まで、というより、冷蔵庫の中にあったはずの食材がきれいになくなっていたからなのだ。

 ソックの視線を受けたアンヘルはあさっての方向をむいた。かなり勢いをつけて首を振ったので、金髪の髪の毛がふわっとゆれてきれいだった。しかしずいぶん汗をかいていた。

 十四代目葛葉ライドウに用意してもらった自宅ですでに長い説教を受けた後だ。かなり反省していたけれども、ソックの怒りにまた火がつくと面倒であったので、知らぬ顔で通そうとしていた。

 アンヘルが買い物籠を持ち、その横をソックが歩いていくのを見送って、京太郎は家路を急いだ。



 家に帰ってきた京太郎は自分の部屋にこもった。父も母もまだ家に帰ってきていないようだった。時間帯から考えるとは母は買い物に出ている時間帯である。父はまだ帰ってくる時間ではない。仕事中だろう。

 一人きりでリビングにいても寂しいだけであるし、自分の仲魔に買ってきてもらった最新刊を楽しむ用事がある。そういうわけで京太郎はさっさと自分の部屋に閉じこもってしまった。

 ソックに買ってきてもらった漫画を京太郎は読み始めた。ベッドに倒れこんで、そのまま読み始めた。実に真剣な表情だった。流石に話の続きが気になっていただけあって、その集中力は半端なものではなかった。

 集中していたので、読み終わるのに五分もかかっていなかった。しかし京太郎は満足せずに、はじめから読み直した。そしてまた五分もせずに読み終わっていた。

 何度も繰り返していると京太郎の名前を母が呼んだ。母の声の調子から、晩御飯だろうなと京太郎は当たりをつけた。

 京太郎は漫画をいったん置いて母の元に向かった。流石に何度も繰り返して読み込んだのだ。名前を呼ばれているのに、聞こえていないふりをする必要はなかった。

 


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