15: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:42:12.59 ID:w4MVYybr0
玄関から出てきたところでハギヨシに招かれて、車の後部座席に京太郎は乗り込んだ。今まで生きていてまったく触れる機会がなかった超高級車を前にした京太郎の動きは非常にぎこちなかった。自分の体がぶつかって、何か失敗してしまったら大変なことになるという考えが頭にあるのだ。
「弁償だとか、そういう話になったとしたら終わりだな」
そんな悪い考えが頭に浮かんできてしまい、全身を上手く支配できなくなっている。
ハギヨシが後部座席に座ると、車はどんどん先に進んでいった。運転手の腕がいいのか、まったく不愉快がない。
車が走り出して数十秒ほどたつと、ハギヨシがこういった。
「お嬢様の招待を受けてくださって、ありがとうございます。本当なら身内だけで済ませるはずだったのですが、申し訳ないです」
本当に悪いことをしてしまったという気持ちが、声にこもっていた。普通なら、このようなセリフが飛び出していい立場にいる人間ではない。しかしハギヨシにとって謝っておかなくてはならないという気持ちになるほどの、問題だったのだ。京太郎にはわからないが、少なくともハギヨシにとっては、それほどだった。
ハギヨシが謝るのを見て、京太郎はこういった。
「いえ、あの、別に悪い気持ちはしませんから。謝らないでください」
このとき京太郎は、軽い調子だった。京太郎はハギヨシが謝っているのは、昨日の今日でパーティーに呼び出すようなまねをしたことだと思っているのだ。そのため、いまいちかみ合っていなかった。
京太郎がこういったあと、ハギヨシはこういった。
「そういってもらえると助かります。どうにもお嬢様は目的と手段がごっちゃになっているようで。困ったものです」
ハギヨシは微笑を浮かべてはいたが、すべてが冗談ではないのがわかる。実際京太郎をパーティーに呼ぶのを反対していた。
しかしお嬢様の一言
「一族のために働いてくれた恩人に、ド派手なパーティーを!
この龍門渕透華の開くパーティーが地味であっていいはずがない! そうでしょうハギヨシ!
盛大にやりましょう! 盛大に!
そうだ、何か目玉になるようなものを用意しなければ、何がいいかしら……何か度肝を抜くような……そうだ! 思いついた! ハギヨシ!
オロチを使いましょう! オロチ! あれを使えばできるはず!
決まりだわ、すぐに業者に連絡しなければなりません! さぁ、急ぎましょう!」
で、押し切られた。
お嬢様の考えをハギヨシが受け入れたわけではない。最終的に京太郎には二つの道しか残されていないのだから、時間の問題だと判断し、お嬢様の思惑に乗ったのだ。
二つの道というのは、悪魔たちを使役する人間たちの中で生きていくのか、それとも一般人として生きていくのかという道。
いつまでも情報をとどめておくことが不可能である以上、京太郎はどちらかを選ぶことになる。今回のパーティーが、道を分かつきっかけになる。そう考えてハギヨシは、お嬢様の思惑に乗ったのだ。
やや茨の道だけれども、いつかは来る道だからと。
困ったように笑うハギヨシを見て京太郎は空返事しか返せなかった。よその家の事情に首を突っ込めるほどの勇気は持っていなかった。
車がさらに先に進む中で、ハギヨシが京太郎に聞いた。
「須賀さまは、もうどこに所属するのかお決めになりましたか。そろそろヤタガラス以外の組織からも声がかかるはずです」
話の内容としては非常に重要である。しかし話しぶりは世間話をするような気軽さがあった。
また、ヤタガラス以外のサマナー集団からの接触があるだろうと話しているけれども、その可能性はないとハギヨシは知っていた。
龍門渕支部所属のヤタガラスが保護の名目で見張っているからだ。このような話を振ったのは、京太郎の仲魔アンヘルとソックが京太郎に何か助言を与えているのではないかと考えたからである。
京太郎は完全な素人である。しかし、京太郎の仲魔はそうではない。京太郎を主と認めている仲魔が京太郎のために助言をしている可能性があった。
もしもその助言で、京太郎が道を決めていたら、ハギヨシの考えている道を選ぶ必要というのがなくなるので、一応探りを入れたのだ。正直に答えてくれるとも思っていないけれど。
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