過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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14: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:38:19.68 ID:w4MVYybr0
 朝ごはんを食べ終わった京太郎がリビングでくつろいでいた。本日は龍門渕のパーティーに一応呼ばれているので、京太郎はワイシャツとスラックスという格好をしていた。

 そもそも一般市民の京太郎にとってパーティーなどという上流階級の催し物というのに縁がない。そのため、さっぱりその手の服装というのも持っていなければ、どういう振る舞いをするべきなのかというのもわからないのだ。

 しかも、急な話であったから、良い対応をするという気持ちさえわいていない。一応、家族に相談してみたものの、家族もまた一般市民であって、当たり障りのない格好をしていけばいいだろうというようにしかいえなかったのだ。

 そうなって結局、地味目な格好でそのときを待つことに決めた。問題があれば、そのつど対応すればいいだけで、また、パーティーに絶対参加しなければならない、などというような使命感もないのだ。

 緩やかに時間が流れているところで、チャイムが鳴った。時計の針が午前九時をさすころである。ききなれたチャイムがリビングに響いた。

 母が手を話せなかったので、京太郎が玄関に向かった。普段なら、母が動き出すのだけれども掃除機をかけるのだといって動き出していたので、京太郎が動いた。また、久しぶりに休めている父も

「龍門渕さんのところじゃないか?」

といって、京太郎を促して動かないので、京太郎が動くことになった。父も言うように、おそらく龍門渕からの使者だろうと予想もつくので京太郎に異論はなかった。


 玄関の扉を開いた京太郎は、一歩足を引いた。これは玄関の前に立っていた執事風の男の存在感に押された結果である。京太郎は今まで見てきた人間の中で、それこそ十四代目葛葉ライドウと同じか、それ以上の奇妙な雰囲気を感じたのである。

 悪魔とも違うなんともいえない冷え冷えとした空気である。この空気を体感した京太郎は、一歩引いてしまったのだ。しかしすぐに姿勢を戻すことができた。それは迎えに来た男に戦う気がまったくないからである。

 奇妙な気配に押されながらもすぐに立て直した京太郎を尻目に、執事らしき男がこういった。

「はじめまして須賀様。龍門渕より参りましたハギヨシと申します」

 非常にきれいなお辞儀をして、ハギヨシと名乗る執事は微笑んで見せた。龍門渕の一族を無事に連れ戻してくれた人間に対して危害を加える理由がない。そもそもパーティーに招待しているのだから、こういう対応になるのは当然であった。

 ハギヨシと名乗る男の自己紹介が終わり、一拍おいたところで京太郎が反応した。

「これはどうも、ご丁寧に。須賀京太郎です。今日はよろしくお願いします。服とか、これでよかったですかね?」

 ずいぶん早口だった。理由は二つある。まずハギヨシというのがはじめてみるタイプの人間だったこと。そのはじめてが緊張させる原因の一つ。

 二つ目は、これから向かう場所が自分のような一般人に縁のない場所、いわゆる上流階級の集まりだということでわずかに緊張しているのがひとつである。この二つがかみ合って妙にあわてた感じが出てしまっていた。

 京太郎の質問を受けてハギヨシがこういった。

「問題ありませんよ。格式ばったものではありませんから」

 ニコニコと微笑んで、まったくいやみなところがなかった。自分が他人に対して妙な圧力を与えてしまうということをよく理解しているのだ。
 そのため、京太郎のように緊張して取り乱す人というのを見ても、まったくおかしいとは思わないようになっていた。

 また、京太郎の服装に関して特に注文をつけなかったのは、実際服装などというのには意味がないというのを知っているからなのだ。血まみれだとか、服を着ていないというのなら話は違うが、常識的な格好をしているのなら問題なかった。

 京太郎がうなずいた。ほっとしていた。今までのあわてていた様子からは打って変わって、一気に調子を元に戻していく。

 ハギヨシの空気に慣れてきたのだ。そして、胸の中にあった不安がなくなったことで、いつもの調子に戻ってきた。冷静さを取り戻すのもずいぶん早かったが、それも当然のことだろう。他人からみれば、同じような空気を発しているのだから、慣れるのも早い。

 京太郎がうなずくのを見て、ハギヨシがこういった。

「車はこちらで用意させていただきました。準備がよろしければ、どうぞ」

 玄関の前に止めてある大きな車にハギヨシは振り返った。京太郎でも知っているような、高級車だった。黒塗りで、ずいぶんぴかぴかに磨かれてあった。ほんの少しの擦り傷で何十万円もすっ飛んでいくのだろうな、などと考えて、京太郎は青い顔をした。

 京太郎はこのように応えた。

「それじゃあ、少し待っていてもらえますか。家族に伝えてきます」

 特に何を用意するというわけではない。服装もこれでいいということであるし、手ぶらでいいのならば、このまま車に乗るだけのこと。しかし家族に何も言わずに出て行くのは少し問題があった。

 ただでさえ、心配させた後なのだ、何も言わずに出て行くなど京太郎にはできなかった。

 そういうと京太郎はいったん玄関の扉を閉めた。当然、これから龍門渕に向かうという話をするためである。

 玄関の扉を閉めた京太郎は父と母に事情を話した。実に簡単な説明だった。

「龍門渕の人が来たからいってくる」

 すでに、事情は話しているし、家族もどういう理由で呼ばれているのかというのも承知していたので、非常に簡単な説明だけで済んだ。
 父と母は、

「骨董品とか壊して帰ってくるなよ、弁償できないぞ」

 とか

「食いだめして帰ってきなさい」

だとかいって、笑っていた。

 家族に「行ってきます」といってから京太郎は玄関の扉を開いた。



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