16: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:48:25.96 ID:w4MVYybr0
ハギヨシの質問を受けた京太郎は答えた。
「いえ、まったく何も決めていません。あと、須賀さまはやめてもらえますか。なんだか、ざわざわするので」
ずいぶんはっきりと言い切った。そして運転手にもハギヨシにもわかるくらいに、所属をどうでもいいと思っているのがわかる口調だった。京太郎は自分がどこの組織に所属するべきなのかまったく考えたことがなかった。
正直に答えたのは、まったくサマナーたちについて興味がなかったからである。駆け引きをするという発想すらない。むしろ気になっていたのは、ハギヨシが妙に丁寧に話しかけてくれることだけだった。
京太郎がもぞもぞとしているのを見てハギヨシはうなずいた。そしてこういった。
「わかりました。では、須賀君、先輩からの忠告だと思って聞いてください。
あなたはこれから気をつけて行動しなければなりません。あなたが駆け引きの苦手な人間で、他人のために戦える人間と見込んで、正直に話をしましょう。
あなたはあなたが思っているより、微妙な立場にいます。
あなたはこれからヤタガラスに所属するかそれともまったく別のどこかに所属するかを選ばされることになるでしょう。
これは時間の問題です。今回のパーティーでほとんど確定するでしょうが、はっきりと決めなければ一週間以内にほかの陣営から声がかかる可能性がある。
コウモリは嫌われます。わかりますね?
あなたの仲魔が何も言わなかった理由はわかりません。しかしひとつだけはっきりとしていることがあります。
それは龍門渕のパーティーに出席するということはヤタガラスに所属する意思があると受け取られということ。
龍門渕はこの地域の支配者。サマナーたちの元締め。ヤタガラスの幹部です。あなたが何を言ってもほかの陣営はこう思うでしょう。
『あいつはヤタガラスに入ったのだ』と。もしもあなたが別のどこかに所属したいというのなら、または誘いがあるようなら、よく考えたほうがいい」
京太郎に話しかけるハギヨシはずいぶんわかりやすく話した。京太郎を自分の陣営に取り込んでしまえば龍門渕への貢献になるはず。龍文渕ではなくとも自分の味方にするということもできたはずである。
しかしそれをしなかった。このときのハギヨシは龍門渕に手を貸しているのサマナーではなく、ただのハギヨシだったのだ。京太郎が感じているように自分と同じような空気をハギヨシは京太郎に感じ取っていたのだ。
ハギヨシがこういうのを聞いて、京太郎は質問をした。
「ヤタガラスって公務員みたいなものだと聞いていたのですが、ほかにもそういうのがあるのですか?
まるでヤタガラスがよくないもののような感じがありますけど」
探りを入れる、などということはない。純粋にわからなかったのだ。警察だとか、消防士のようなものだというのがヤタガラスに対しての京太郎の印象だったからである。少なくとも今まで聞いた話のうちでは形だけでも正義の組織だろうと考えていた。
京太郎の質問にハギヨシが詰まった。ハギヨシの微笑が消えてしまった。完全に次の言葉がのどで詰まっていた。
ヤタガラスというのは真っ白な存在ではないとハギヨシはよく知っているのだ。
シンとしたところで京太郎の質問に運転手が答えた。
「ヤタガラスも真っ白な存在じゃないってことさ。ハギちゃんはそのあたりよく知っているからな。
何も知らない須賀君を取り込んでいいものかと気に病んでいるのさ。
うちのお嬢は微妙な力関係を考えないからな、困ったもんさ。俺たちの小さな心臓はいつも震えっぱなしよ」
陽気な声だった。おそらく二十代後半あたりと京太郎は当たりをつけた。ハギヨシに変わって答えたのは、ハギヨシが実に面倒くさい立場にいることをよく運転手は承知していたからである。
いちいち立場の説明をしてもいいが、そうなると若気の至りをハギヨシは自分で説明することになるので、運転手が気を回したのだ。
運転手の男の答えを聞いた京太郎は、うなずいた。そしてこういった。
「大変ですねハギヨシさん」
流石に、京太郎も理解したのだ。およそ一言では言えない、説明しきれない何かがあったと。しかし何かというのをいちいちたずねはしなかった。
答えられない質問だとか、踏み込んでこられると困る領域があるのは京太郎もよくわかるからだ。
京太郎の様子を見て、ハギヨシはこういった。
「わかってもらえると助かります。人が運営している以上いろいろと人間関係が面倒くさいことがありますから。
まぁ、大切なのは須賀くんのこれからのことです。
もしもこれ以上悪魔とかかわりたくないというのなら、はっきりとそういってください。そうすれば、ヤタガラスはあなたを保護対象として見守る姿勢をとるようになるでしょう。
し、十四代目はあなたのことを気に入っているみたいですが、そこは私が話をつけましょう。まぁ、そういうことです」
そういっている間に車はどんどん先に進んでいった。目指すは龍門渕である。
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