過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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19: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 05:03:53.06 ID:w4MVYybr0

 ハギヨシの案内で屋敷の中を進んでいるとき何人かお手伝いさんとすれ違った。先ほど見かけた若いお姉さんから、かなりいかついおじいさんまでいろいろと働いていて、年齢層はばらばらである。

 時々京太郎が見つけたメイドさんと同じようなメイド服を着ている人もいて、服装もバリエーション豊富だった。

 いろいろな人とすれ違っていくなか盛大に携帯電話を鳴らすものがいた。携帯のアラームというよりは警告音のような音だった。非常に静かな屋敷の中で警告音はよく響いた。それが一度なり、そしてすぐに二度目がなった。

 警告音を鳴らしたのは携帯電話だった。その携帯電話は、メイド服を着た女の子の持ち物であった。

 鳴らしてしまったメイドさんはごそごそとポケットの中をあわてて探っていた。あわてて動いているため長い黒髪がゆらゆらゆれてすごかった。

 携帯電話を盛大に鳴らしているメイドを見て衣がこういった。

「ともきー、仕事中は電源を切っておくように言われたろうに」

 怒っているのではない。これからメイドの少女に待ち受けているだろう運命を思い、哀れんでいた。仕事中に携帯電話を鳴らすというのがそもそもまずい。携帯電話を持つのならばせめてマナーモードである。

 しかし、携帯電話を鳴らしたから、かわいそうなことになるのではない。同僚たちなら、注意するくらいで終わりだろう。問題なのは、ハギヨシの前で盛大に鳴らしたことである。彼女、沢村智紀は何度か失敗しているのだ。そしてそのたびに注意を受けている。注意をしたのはハギヨシである。

 二度目の警告音を鳴らしている携帯電話をとめようと沢村智紀はあわてていた。あわてているせいで使い慣れているはずの携帯電話を上手く操りきれていなかった。そしてやっとで携帯電話の電源を落とした。

 その様子を見たハギヨシがこういった。

「申し訳ないです、お客様の前で」

 口調こそ柔らかいが、怒っているのがよくわかる。先ほどまではやさしげだったハギヨシの目が鋭くなっているのだ。ハギヨシはそれほど怒りやすいタイプの人間ではない。どちらかといえば寛容な人間である。しかし、再三の忠告を受けても携帯電話を持ち歩くようなまねをするメイドには教育が必要だと判断したのだ。

 京太郎はこう返した。

「いえ、気にしないでください」

声が若干震えていた。ハギヨシの怒りのオーラというのがずいぶん恐ろしかったのだ。

 携帯電話を鳴らしてしまった沢村智紀に一言つぶやいてから、京太郎と衣をつれてハギヨシは案内を続けた。

 何をつぶやいたのか京太郎はわからない。しかし、沢村智紀の顔色からよくないことが起きたと予想をつけるのは簡単だった。

 京太郎の近くにいた、天江衣が、京太郎にこっそり教えてくれた。

「何、心配することはない。一週間ほど電子機械と接触するな、くらいの程度の低い罰だろう。もっとも、ともきーにとっては地獄かもしれないがな。中毒から脱するにはいい機会だ」

 それを聞くと京太郎は少し心が軽くなった。

 
 ハギヨシの案内で天江衣が暮らしている別館にたどり着いた。京太郎の感覚からすると大きな屋敷にしか見えないが、お金持ち感覚で言えば、別館なのだろう。また、京太郎は別館を見てこんな印象を持った。

「よく、守られている」

 しかし、声には出さなかった。人の事情をいちいち詮索する理由がないからだ。

 玄関扉の前で衣がこういった。

「ここが私の住み家ということになっている。少々大きいがな。本当なら客室に案内するところだが、透華はいまここにいる。京太郎の仲魔の二人もな」

 衣は精一杯背伸びをして扉を開いた。

 そして京太郎にこういった。

「ようこそ龍門渕へ。京太郎」

 別館に誘う衣は実に格好がよかった。上下ジャージ姿であったが、迫力がある。ハギヨシほどではないが、なかなかの圧力であった。しかし天江衣は別に京太郎を怖がらせたいなどと思っていない。自分の住み家に招待しているのだから、格好をつけておかないといけないと思っただけのことである。お客さまなのは間違いないのだから。

 扉を開いて、その先に三人は進んでいった。そして、リビングの扉を開いた。扉を開くのと同時に、三人は固まった。

 衣が扉を開いた向こう側には、実に混沌とした光景が広がっていたのだ。まず、ごちゃごちゃとしすぎだった。テレビゲーム機だとか、漫画の本が出しっぱなしになっている。またお菓子の袋だとか、ジュースのペットボトルもそのまままだ。掃除をする必要があるだろう。

 そして姿勢というのがあまりよくない人がちらほらといる。たとえばメイド服を着た少女、国広一が上下ジャージ姿のアンヘルとトランプで遊んでいた。床に直接座って遊んでいるのだ。もちろんフローリングであるから、問題はないのだ。ただ、胡坐をかいていたり、微妙に寝転がっているような姿勢になっていたりするので、あまりよろしくなかった。

 大きなテレビの前には二人の少女が陣取っていた。一人は金髪の少女。もう一人は黒髪のソックである。二人とも床に直接座り、だらけていた。黒髪のソックは上下ジャージ姿でアンヘルとおそろいだった。

 ソックと同じようにテレビの前で陣取っている金髪で長い髪の少女はワンピースのような服を着ている。どこかのブランド物だろう。街中でならば人目を引くに違いない。しかしおかしなすわり方をしているのでワンピースのすそがめくれあがって台無しになっていた。

 二人が見ているのは毎週日曜日に放送されている「アトラス戦隊ヒーロジャー」という番組、その先週分を録画したものである。

 なかなかの話題作である。特にヒーロー物のお約束を破っているので話題になっていた。巨大ロボットというのが出てこないのだ。ロボットに当たるものはいるのだけれどもロボではない。メカメカしくないのだ。

 一応、合体ロボットにあたるものというのがある。主人公の相棒たちが変形し融合に近い形で合体し、禍々しい巨人となるのだ。そしてこの巨人がロボの代わりにに巨大な怪物と戦うのである。最近の映像技術はすごいなと感心するできばえである。

 それが思いのほか好評で、小さな子供たちの心をがっちりとつかんでいた。

 しかし不思議なことでテレビ局にに苦情が入っているらしく完走が危ぶまれていた。



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