過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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206: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 04:37:14.37 ID:Z22ZBlJ80
 オロチにしがみつかれたまま戦いを続行しようとした京太郎を見てディーが一歩引いた。ディーの表情は完全に引きつっていた。まさか、この状況で更に一歩前に出るような馬鹿な真似をするとは思ってもいなかったからである。

 もしもこのままオロチに引きずり込まれる形で真っ暗闇の世界に落ちれば、間違いなく京太郎はオロチにとらわれるだろう。なぜなら、スポーツカーの調子が悪いうえ、オロチの触覚はすでに京太郎に巻きついている。

 道を教えてくれたときとはすでに事情が違うのだ。京太郎をほしがっている自分をオロチは抑えていない。そしてすでに牙は京太郎にかかっている。

 深い深い暗黒の世界まで引き込めたのならば、絶対に帰さないだろう。京太郎もオロチの執着の深さはわかっているはず。戻らなくてはならないはずだ。そうしなければ何もなくなる。

それなのに、京太郎は松常久を睨んでいる。輝く赤い目から、血涙を流しながらまだ進もうとしている。馬鹿すぎる。松常久など後でどうにでもできるのだ。後で始末すればいい。脱出してからゆっくりとやればいいのに、奪おうとする。まったくディーには京太郎が理解できなかった。

 京太郎が一歩踏み出したとき、ほくそ笑んだものがいた。松常久である。石膏像のような顔面が奇妙にゆがんだ。人間らしくない笑みだった。松常久は、京太郎が獲物に見えたのだ。

そして、獲物に見えたものだから、ここで恨みを少しだけでも晴らそうとした。オロチが深い場所にもぐろうとしていることにも、気がついていないらしかった。

 そして悪魔に変化した生き残りのサマナーたちが逃げようと一生懸命になっているのに、京太郎に向かって松常久は駆け出した。両足はすでに回復している。マグネタイトに物を言わせて作り直したのだ。

 松常久は勝利できると信じている。自分のほうがマグネタイトをたくさん抱えているからだ。五つのマグネタイト製造機が腹に埋め込まれている。マグネタイトが多ければ強いというのがサマナーの常識。ならば、勝つのは自分だろう。

目の前の血涙を流す不気味な小僧のマグネタイトは非常に少ないのだから、楽勝だ。松常久はうぬぼれ油断したのだ。

 京太郎と松常久がぶつかった。松常久が力に任せた攻撃を仕掛けてくる。思い切り右腕を振りかぶっている。振りかぶる右腕にはマグネタイトをふんだんに使われている。補強されているのだ。あまりにもふんだんに使うものだから、マグネタイトが漏れ出して火花を散らしていた。

 一方で、京太郎はまっすぐに松常久を睨むだけであった。一歩踏み出した形のまま動かない。踏み出す必要がないと知っているからだ。

 ぶつかり合った次の瞬間、松常久が後ろに吹き飛んでいた。野球のボールが場外に吹っ飛ぶような気持ちのいい吹っ飛び方だった。また、吹っ飛んでいく松常久の頭部は三分の一ほど吹っ飛んでいた。綺麗にえぐれている状態だった。

なくなっている部分からはマグネタイトが噴出している。吹っ飛ばされた松常久だが生きているらしく立ち上がろうともがいていた。

 松常久はさっぱり何が起きたのか理解できていない。しかし松常久を吹っ飛ばした京太郎と、京太郎に絡み付いているオロチ、そばで見ていたディーは理解できていた。特に難しいことは行われていない。殴りかかってきた松常久を京太郎が殴り返しただけである。

 松常久は力とはマグネタイトであると思っている。たくさん持っていれば、強いのだという考え方だ。間違いではない。マグネタイトは悪魔の肉体そのものである。マグネタイトがたくさんあれば、悪魔の体は大きく強くなる。雪だるまみたいなものだ。雪を大量に使って大きな塊を創れば、小さな塊よりもずっと重たく硬くなる。ぶつかり合えば、大きなものが勝つだろう。それこそ小手先の技術などまったく関係ない。力で押しつぶせる。

 わかりやすいのはオロチだ。日本の領域に生きているものたち全てからマグネタイトを受け取っている巨大な悪魔は世界を生み出せるほどの力を持っている。また音速で戦う分身を大量に生み出し壊れないはずの結界をらくらく壊せる腕力を持っていた。

 しかし、マグネタイトが絶対なのかといえばそうではない。戦うものがあきらめなければ、状況はいくらでもひっくり返る。戦いとは大きさを競うものではないからだ。

 だから必死になる。攻撃をよけて、カウンターを打つ。相手のマグネタイトを制限して、弱点をつく。一番簡単なのは、相手が動き出す前に始末してしまうこと。

あきらめずに戦えば、勝てるのだ。京太郎も松常久相手にそうしたのだ。相手の弱点が戦いになれていないことによるセンスのなさにあると見抜き、自在に動かせる右腕でカウンターを思い切り打ち込んだ。

 まともな武術を使わない相手の攻撃などカウンターの餌食だ。音速で攻撃を仕掛けてきたオロチにすらカウンターをかけた京太郎が、松常久の攻撃など見逃すわけもない。

 二人がぶつかり合ったとき、帽子のつばの部分が千切れてしまった。京太郎のかぶっていたヤタガラスのエンブレム付きの帽子である。これがだめになっていた。松常久の攻撃は力をこめすぎていたために攻撃をかわしたのにもかかわらず、帽子を傷つけたのである。




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