207: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 04:40:59.86 ID:Z22ZBlJ80
吹っ飛ばされた松常久を尻目にディーが
「ナイス! ハギちゃん!」
と叫んだ。すでにディーの興味は松常久にない。今思うのはどうやってオロチの腹の中から逃れるのかだけだ。松常久とその部下たちなどどうでもよかった。
そんなときに、頼れる相棒が、見事に手を打ってくれたのがわかったのだ。叫びたくなる。
二十メートルほどの大きな門がオロチの腹の中に現れたのだ。そしてこの門がハギヨシが手配してくれたものだというのもわかっていた。この門のすぐそばでハギヨシの式神たちが警備に当たっていた。警備に当たっている式神は八体で、槍を片手にたずさえた武人の姿で現れていた。
高さ二十メートルの巨大な鋼の門。これが現れると京太郎にしがみついていたオロチが激しく舌打ちをした。忌々しげに鋼の門を睨んでいる。そして今まで以上に京太郎を締め付け始めた。しがみついている京太郎の肉体がきしむほどの強さであった。
オロチの触覚は何が起きようとしているのかを察したのだ。巨大な鋼の門は現世と自分の世界をつなぐためのもの。この門が現れたということは誰かが現世への道をつないだということである。誰が現世への道を開いたのかはわからない。しかし、オロチにわかることがひとつある。
「鋼の門の向こう側には自分に敵意を持っているものがいる」
そしてこう思うのだ。
「きっと、私の宝物を奪うつもりなのだ」
忌々しげに鋼の門を睨むオロチはいまだ京太郎にしがみついたままだ。すぐにでも鋼の門を壊してしまいたい。自分の世界に現れた異物を排除したいと願っている。しかしできない。契約が縛っているのだ。葦原の中つ国の塞の神として存在する以上、道を使わせる契約がある。
その支払いは大量のマグネタイトですでに受け取っている。この契約を破るわけにはいかなかった。契約を破れば、マグネタイトはあっという間に失われる。そして名前を失い力を失い、考えることもできなくなるだろう。
また、破ろうとしても、門を守る巨大な力を持った式神たちが防いでしまうだろう。だから睨むしかできなかったのだ。そして最後の手段としてしがみつく以外の行動を取れなかった。
ディーの叫びを聞いた京太郎が唇をかみ締めた。非常に悔しがっていた。輝く目はもうない。血涙ではない涙が、ほほを伝っていた。
頭ではわかっているのだ。今は脱出するべき。真っ暗な世界まで落ちていけば今度こそ脱出は難しくなるだろう。逃げるべきだ。そして松常久も、ほとんど詰んだ状態なのだ。後で捕まえればいい。ヤタガラスに任せればいい。
しかしここで松常久を逃すのは非常に悔しかった。なにせ、松常久の腹には五体の生き人形が埋め込まれたままなのだ。
助けることができない、これが悔しかった。生き人形にされている人たちの名前も顔も京太郎は知らない。どんな性格なのかもわからない。悪魔に堕ちた怪物と戦ってまで助けたとして、利益があるわけでもない。
しかし脳裏にちらつく光景がある。魔人になるきっかけになった思い出だ。
「理不尽に泣くものがいる」
そう思ってしまうと、悔しくてしょうがなかった。
ただ、京太郎にはチャンスが残されていた。激怒している松常久が再び襲いかかってきたのだ。松常久はマグネタイトをこれでもかといって使い、攻撃を仕掛けてきた。万全といっていい状態だった。
京太郎に対する怒りでもって更に凶暴になっていた。マグネタイトを吹き上げて、突進してきた。なにせ五つのマグネタイト製造機が腹に埋め込まれているのだ。多少の傷ならばあっという間に回復できる。
三分の一ほど消滅していた頭はきれいに元通りだ。へたくそなマグネタイトの操作術であってもまったく問題なかった。物量に物を言わせた力押しである。今の松常久にあるのは怒りだけだ。
自分にカウンターを仕掛けた不気味な小僧に対する怒りである。
「偉大な神そのものとなった自分を殴るなど、万死に値する」
ただひたすらに自分。ただそれだけしかなかった。
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