232: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:13:56.41 ID:py78Qnqv0
パーティー会場に招待されているものたちの反応はいろいろだった。しかしほとんどの人は黙って聞いていた。わずかに鼻で笑っている人たちがいて、ほんの数人だけまったく違った行動をとっていた。
会場のほとんどは、黙って聞いている人たちである。黙って聞いている人たちは同意しているから黙っているのではない。何がおきたのかさっぱりわからないから、話を聞いているのだ。いきなり始まった演説である。どういう流れの事件が起きているのか理解するために話を聞いていた。
虎城やディーのように実際に襲われた人ならばすぐに嘘だとわかるだろう。特に松常久は悪魔に堕ちてしまっている。この事実だけでも、十分処刑される罪なのだ。
しかし、パーティー会場にいる人たちのほとんどは、そういう事実を知らないし、今はじめて構成員が行方不明になったのを知ったのだ。当然判断を行うために情報が必要で、そうなると黙って聞くしかない。
鼻で笑っている人たちというのもわずかにいる。松常久の話を聞いて鼻で笑ったのは、完全にライドウ側の人間だからである。よくライドウと交流して、ライドウが何を考えて動いているのかを知っている人たちだ。
そのためライドウが松常久のような小物をいちいち罠にはめるわけがないとわかっている。始末しなければならないと判断すれば、すぐに始末しに来るのがライドウである。
そして笑っている人たちが一番おかしいと思っているのは、ライドウの馬鹿弟子二人、ベンケイとハギヨシがいちいち師匠のために動くというところだ。これが一番ありえない。
ベンケイなら面倒くさいからいやだといって断るだろう。そういうタイプである。
ハギヨシならば動いてくれなくはない。しかしお願いの内容によってはライドウに牙をむく。だから鼻で笑った。
「扱いにくい二人が都合よく動いてくれるものか」と
そして会場の中のほんの数人だけが、パーティー会場の様子をじっくりと観察していた。この人たちは演説している松常久ではなく、パーティー会場の出席者たちを観察していた。
この数人とは龍門渕透華の父親と祖父のことだ。二人とも冷え切った目でパーティー会場全体を見渡していた。透華の父親と祖父がパーティー会場全体を観察しているのは、内通者がいるのではないかと考えたからである。
というのが、松常久は非常に無茶な賭けに打って出ている。自殺行為だといってもいい。今この瞬間に討伐されてもおかしくないのだ。しかしあえてここに出てきているというのなら、勝てるかもしれない可能性があるからだろう。
仮に、ここで勝つことができるとしたら、それは会場にいる数名の幹部を完全に自分の思惑通りに動かしヤタガラスの決定を覆すところまで持っていく奇跡を起こすことだけである。
奇跡を起こすために、演説ひとつだけでどうにかなるわけがない。しかし、松常久はここに来ている。ということは、自分ひとりではないという可能性があるだろう。
つまりパーティー会場に松常久の仲間がいるかもしれないのだ。幹部を扇動する誰かがいるかもしれない。
龍門渕透華の父親と祖父が冷えた目で会場を観察しているのは、もしかしたらを考えた結果だ。すでに人攫いの事件についてはよくわかっている。わかっているからこそ、明らかになっていない仲間の存在を疑ってしまう。
退魔の家系を狙った人攫いの仕事は、準幹部松常久程度の力で出来る仕事ではなかった。ただ、松常久はヤタガラスだった。ならばヤタガラスの身内を疑ってしかるべき。当然幹部も疑うべき。そういう頭になっているのだ。
パーティー会場にたどり着いた龍門渕透華は一瞬立ちすくんだ。異様な熱気を感じたからだ。松常久の怒声とその迫力、そしてパーティー会場の出席者からただよう黒い念を感じ取ったのだ。
自分に向けられたものではないにしても、いい空気ではなかった。特に異能力者のパーティーであるから、渦巻く空気は地獄のようである。
しかし松常久の聞くに堪えない演説を見せ付けられて、ひるんでいた龍門渕透華が魔力を練り始めた。
今までの萎縮振りが嘘のように、一気にいつもどおりの龍門渕透華に戻っていた。ドレスの長いスカートをつまみ、一発食らわしてやろうと意気込み始めている。肌が白いため怒りで赤くなっているのがすぐにわかる。
彼女が殴りかかろうとするのはしょうがないことだ。自分の一族とヤタガラスを侮辱する内容が耳に入ってきている。それも聞くに堪えない言葉ばかりで飾られている。彼女には許せないことだった。
自分たちは不正などしていない。ヤタガラスの幹部として使者として真面目にやっている。恐ろしいと思うことも山ほどあるのに、必死でやっている。そんな一生懸命なところに、侮辱などされれば、火もつく。
さて殴りにいくかと意気込んでいる龍門渕透華を井上純が止めた。必死だった。ここで殴りに出て行けば、間違いなく別の問題が起きるからだ。特に龍門渕のお嬢様が殴りにいくのはまずかった。
今は龍門渕とヤタガラス、そしてライドウに罪をかぶせようとしている最中なのだ。しかも非常にあいまいな状況で不安定だ。ハギヨシは大丈夫だといっているけれども、万が一ひっくり返されたとき、どんな面倒が起きるのかはわからない。
なら、不用意な行動をとるのは控えるべき。井上純はすぐにそれに思い当たり、おもいきり龍門渕透華にしがみついたのだ。そして
「落ち着いてくれ! 手を出したら不利になる!」
となだめるのだった。
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