過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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243: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:54:10.52 ID:py78Qnqv0

 茶番劇に決着がつくと、パーティ会場が騒がしくなった。出席者たちがそれぞれに口を開いている。いいたいことがいろいろとあるのだ。ただ、出席者たちの会話の内容には大体「魔人」という単語と「松常久の悪魔化」という単語が含まれていた。

しかしあまりいい雰囲気ではなかった。冷たい空気ではなく、妙な熱さが感じられる。熱に浮かされて頭がまともに動いていないように見えるものが多い。酒に飲まれた状態だった。

 今まで感じていた悲しい気持ちや冷たい気持ちはどこかに吹っ飛んでいる。この変化がおきたのは京太郎と松常久の戦いが出席者のための余興になったためである。もちろんそんなつもりは京太郎にも松常久にもない。ただ結果的にそうなってしまっていた。

万物に凶事をもたらす魔人と悪魔に堕ちた罪人の戦いだ。見たくても見れるものではなかった。大金を支払っても再現できないだろう。

 熱に浮かされ始めたパーティー会場中で虎城は呆然と立ち尽くしていた。涙はもう引いている。ただ、ぽかんとしていた。あまり格好のいいものではなかった。京太郎と松常久のやり取りに虎城は追いつけていないのだ。

虎城の中では勝負はもうついていて、どうやってもひっくり返せないと思い込んでいた。だから、一発で状況をひっくり返した京太郎が信じられなかったのだ。そもそもどのタイミングでヤタガラスのエンブレムを埋め込んだのか、というのもわからないのだ。理解が追いつかないのもしょうがないことである。


 長い長いドライブを終えた京太郎は、パーティー会場でほっと一息ついていた。すでに京太郎の気配はただの人間のものに戻っている。

輝く赤い目も普通の目に戻っていた。オロチの腹の中で出会った松常久は始末できたのだ。これで、京太郎の悩みの種はなくなった。いつまでも気を張っておく必要はない。ただ、京太郎の姿というのはまったくよくなかった。

 音速とはいわないけれどもその一歩手前で拳を放ったのだ。踏み込んだ靴も、動きに合わせて動いたシャツとスボンもひどいことになっている。また、両手など真っ赤に染まっているのだ。警察に見つかれば間違いなくしょっ引かれるだろう。

 そんな京太郎のところに、ソックが近づいてきて、こういった。

「マスター、マスター。人形の呪いを解いておいたぞ」

 呪いを解いたソックはにこっと笑って見せていた。実にすばやい仕事だった。つい数分前に人形を渡したのだから、とんでもない勢いでやり遂げていた。しかしソックからしてみれば、人形の呪いは恐ろしいものではないのだ。

 何せ自分が一度かかった呪いである。そしてそれを一度解くことができている。同じ呪術がかけられているのなら、同じように解いてしまえばいい。呪術に長けているソックにしてみればお茶の子さいさい。天江衣をテレビゲームではめるよりも簡単だった。

 会場の目立たないところに男性が一名女性が四名、合計五名が寝転がっていた。五人とも、もともとは服を着ていたのだろうが、いまは素っ裸である。人形にされたときに服が脱げてしまったのだ。そしてそのまま人間の状態に戻ったので素っ裸なのだ。

 元に戻った男性は四十代あたりで、かなり鍛えられた体をしていた。身長は平均的なところである。ただ、不思議なことがあった。この男性、ずいぶん印象が薄いのだ。気配が薄いといったらいいだろうか。写真に写っても映像として残っていてもこの男性に注目するのはなかなか難しそうだった。

この男性を見つけるのだと意識しておかなければ、間違いなく見落とすだろう。この男性を見て、すぐにこの人が内偵を進めていた構成員だなと京太郎は察せられた。

 女性四名は虎城よりも若かった。虎城は二十代前半であるから、ふけているわけではない。ただ、全体として若かったのだ。女性四名は十代後半か、京太郎と同じくらいだった。

 特別いやらしい気持ちはないのだけれども、なんとなく京太郎の視線が女性四名に向かっていた。なんとなく、顔を見てみたいなという気持ちになったのだ。なんとなくである。

 そうして京太郎が観察しようとすると、肩に飛び乗ってきたソックによって防がれた。あっという間に京太郎の肩に飛び乗って肩車の形になり、両手で京太郎の目を隠してしまった。

「覗きはだめだぞ」

京太郎はまったく抵抗しなかった。ソックの言葉は正論だった。

 幸いなことで、五名の裸はほとんど晒される事はなかった。アンヘルが翼を広げて五人の体を隠したのだ。マグネタイトを練り上げて翼を作るまで一秒もかかっていなかった。右の翼と左の翼を足した長さは大体六メートルほどである。大きくて真っ白い翼を広げれば被害者を隠すのは簡単だった。

 アンヘルが隠している間に、ハギヨシと国広一が動いて毛布をかけた。毛布を持ってきたのはハギヨシで、アンヘルの羽の中に入って毛布をかけたのは国広一である。

 隠し終わると、翼を消したアンヘルが眠っている五人に栄養ドリンクを飲ませていった。ただ、京太郎が虎城にしたような方法ではない。無理に口を開いてドリンクを注いでいった。五人に飲ませて回っている栄養ドリンクはアンヘルとソックが京太郎に持たせたものと同じものだ。

 ソックの呪術の知識とアンヘルの祝福によって強化されたドリンクである。死んでいない限りは活力がみなぎってくるようになっている。副作用はもちろんある。

しかしたいしたものではない。肉体の活性化のためにマグネタイトが使われるだけだ。無理やりにたとえると、蓄えている脂肪を強制的にエネルギーに換えているようなものである。

脂肪のところをマグネタイトに置き換えるとこのドリンクの効果になる。エネルギーの前借、代償は前借したエネルギー分ゆっくり休まなくてはならないことである。

 五人がいい感じに回復してきたのを見て、仲魔二人に京太郎は礼を言った。

「ありがとう。助かったよ」

 京太郎がお礼を言うと、アンヘルは軽く微笑んで見せた。ソックは肩車の格好のまま、京太郎の頭をパシパシと叩いていた。京太郎の頭をパシパシと叩くソックも微笑むアンヘルも機嫌がいいのだ。



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