過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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244: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:58:12.85 ID:py78Qnqv0

 寝かされている五名が龍門渕のヤタガラスによって運ばれていった。それに付き添って虎城も一緒に消えていった。会場から出て行く途中で京太郎に虎城は深くお辞儀をした。京太郎はそれにあわせて頭を下げた。お辞儀をされたから自分もお辞儀をしなければならないと、反射的にお辞儀をしてしまったのだ。

 そうするとソックは肩からずり落ちそうになった。そうして京太郎の頭にしがみつくことになった。京太郎の頭にしがみついているソックは鼻息が荒くなっている。急に京太郎がお辞儀をしたからだ。まさか、肩車をしている状態から深いお辞儀をするとは思っていなかったのである。

 京太郎がお辞儀から普通の姿勢に戻ると、ソックはこういった。

「なぁマスター。ちょっと話は変わるけど、いいか? 聞きたいことがある。

 あのさ、朝に話していた買い物って……どこにあるの?」

 ソックの口調は甘い響きがあった。ソックが京太郎にたずねているのは、京太郎が異界物流センターに向かう目的だったものの在りかだ。

 ソックは実にそわそわとしている。なにせ京太郎はそれほど興味がなくなっているけれども、ソックは京太郎が買いに出ていたマンガ本の続きが非常に気になっていたのだ。もちろん空気を呼んで、今まで抑えていたけれども、それも必要ない。

だから聞いたのだ。どこにあるのかと。できるのならばさっさと自分に読ませてくれと。もちろん京太郎が先に読めばいいが、その後は自分に読ませてくれ、とそんな調子なのだ。

 ソックがたずねると、京太郎はこういった。

「マンガのことか? たぶんディーさんの車の中にあるはず。ディーさんに鍵を開けてもらわないとだめだな」

 京太郎は口元に手をやった。少し不安そうだった。というのが、いまいちどこにおいたのか覚えていないのだ。

 マグネタイトと交換して初回限定版のマンガを手に入れたのは間違いない。しかし、その後がわからないのだ。書店のおばあさんと店番の造魔ハナコに迷惑をかけたのを覚えている。しっかりと手に持って車に乗ったのも覚えている。

その後がわからないのだ。実にいろいろなことがあったので、いちいちどこに漫画本があるのかと考えてもいなかった。もしかするとどこかで落としたかもしれないので、はっきりとどこにあると答えられなかった。

 京太郎の様子を見て、ソックがきいた。

「買ったんだよね? 買い忘れたとかないよね?」

 肩車されているソックは京太郎の頭を指でつついていた。ほんの少しだけあせっていた。家庭菜園を作っている間も楽しみにしていたのだ。もしもここで買い忘れていたということになれば、本屋に買いに行かなくてはならないだろう。

それくらいに楽しみにしていたのだ。読みたい気持ちがおさまりそうになかった。

 すぐに京太郎はうなずいた。そしてこういった。

「大丈夫だと思うぞ。車の中には入れたからな。おそらくディーさんの車にあるはず」

 京太郎がこういうと、ソックはこういった。

「なら、取りに行こう。いや、買い忘れたのかと思ったぞ。楽しみにしてたからな」

 京太郎とソックが話をしているとアンヘルが駆け寄ってきた。アンヘルは国広一から受け取ったタオルを京太郎に渡した。京太郎は「ありがとう」といってタオルで手を拭いた。

「何の相談です?」
とアンヘルがたずねると、京太郎が答えた。

「マンガだよ。買いにいったマンガの話。ディーさんの車の中に置き忘れたから取りに行かなくちゃってな」

 京太郎がそういうとアンヘルが二人にこういった。

「なら、とりにいきましょうか。用事も済みましたしね」


 アンヘルが合流したところで、京太郎はディーに話しかけた。ディーはやることがないらしく暇そうにしていた。京太郎はディーにお願いをした。

「ディーさん、車の鍵を開けてもらいたいんですけどお願いできますか。荷物を車の中に置いたままにしているはずなんです」

 京太郎のお願いを聞いたディーは答えた。

「あぁ、鍵なら開いているから、好きにしていいよ。俺は会場から離れられないからね」

 ディーはくたびれた笑みを浮かべている。松常久が面倒を起こしてくれたことで仕事が増えたのだ。パーティー会場の警備の仕事である。本当ならハギヨシか龍門渕のヤタガラスたちが行うのだけれども、松常久と救助された構成員のために人員を割く必要が生まれてしまった。

結果ディーが会場の警備を任されたのだ。ディーの実力なら警備はたやすい。らくらくできる。

 しかし、上流階級社会というのがディーの性格に会わない。パーティーの出席者に愛想笑いを浮かべるのがつらいのだ。しかし無愛想にするわけにもいかない。結果、くたびれてしまっていた。

 ディーが好きなようにしていいというので、京太郎は

「わかりました」

といった。そして京太郎は軽く頭を下げて、パーティー会場の出口を目指して歩き出した。やはり頭を下げたときに肩車されているソックがひどいことになっていたが京太郎は気にしていなかった。




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