過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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246: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 01:06:26.53 ID:py78Qnqv0

 京太郎からビニール袋を受け取ったソックはずいぶんはしゃいでいた。そしてこんなことをいった。

「よし、衣ちゃんに頼もう! 確かブルーレイのプレイヤーがあったはず!」

 アンヘルとソックの住処にブルーレイのプレイヤーはない。そのうち買いにいこうとソックは考えているのだけれども、まだ拠点を手に入れたばかりでさらなる娯楽に力を入れられるほど余力がなかったのだ。そこでなかなかいいプレイヤーを持っている天江衣の力を借りようという発想になったのだった。

 ソックがはしゃいでいると龍門渕透華が歩いてきた。龍門渕透華に続いて、国広一、天江衣が続いている。はしゃいでいるソックを見て天江衣は首をかしげていた。彼女たちが中庭に来たのは用事があったからである。

 彼女たちがここに来たのは、京太郎と相談する必要があったからである。相談とは報酬の相談である。龍門渕透華は父親と祖父にヤタガラスの使者として須賀京太郎の働きにふさわしい報酬を渡すようにと命じられていた。

報酬を正しく与えられることが、ヤタガラスの使者の一番と彼らは考えているのだ。

 国広一と天江衣は付き添いである。もしも何か問題が起きるようなら、国広一と天江衣が仕切りなおすつもりなのだ。アンヘルとソックと、二人は仲がよい。そのためもしも龍門渕透華が交渉に失敗したとしても、無理にひっくり返せるように備えているのだ。

 機嫌がすこぶるいいソックはおいておいて、龍門渕透華は京太郎に話しかけた。

「須賀くん、お礼を言わせてもらいます。ありがとうございました。あなたのおかげでさまざまなものを守ることができましたわ。

 ヤタガラスとしての龍門渕の立場。構成員の命。そして秩序。どれも尊く守りがたいものです。

 あなたの働きで守ることができました。本当に、ありがとうございます」

 龍門渕透華の礼を受けて京太郎は返事をした。

「あっ、はい。こちらこそ」

 大分、京太郎の挙動はおかしかった。ずいぶんあせっている。目が泳いでいた。龍門渕透華の上流階級ぶりに圧倒されているのだ。京太郎はこういうタイプの人間とかかわったことがまったくない。

そのため、どういう風に対応していけばいいのかわからないのだ。牙を向いてくる相手をどうにかするのはわかりやすくていいのだけれども、龍門渕透華のように上品なタイプは難しかった。

 京太郎のおかしな返事を受けて透華は続けた。

「私たち龍門渕のヤタガラスはあなたに報いたいと思っていますの。

 生々しい話ですが、きっちりと行わなくてはなりません。それが信頼関係を生むのですから。

 あなたの働きに対して、私たちは二つの報酬を考えています。ひとつはわかりやすい報酬。もうひとつは、わかりにくい報酬です。二つの報酬のどちらかをあなたに選んでもらおうと思っています。

 わかりやすい報酬とはお金です。あなたのためにお金を用意しましょう。紙幣、望むのならば宝石、形は問いませんわ。土地がほしいというのなら、働きに見合った分を用意しましょう。ただ、私たちから報酬を正式に受け取ると、縁が結ばれます。

 もうひとつの報酬。わかりにくい報酬とは情報操作です。あなたは今回の一件で、ヤタガラスの闇の部分に触れました。サマナーの世界にあなたが嫌気をさしたのではないかと私たちは考えているのです。

 ですから、あなたが望みさえすれば、情報を操作してあなたを一般人として隠しましょう」

 龍門渕透華が報酬の説明をすると、京太郎は首をかしげた。京太郎の表情を見れば、京太郎がどういう状況なのかがすぐにわかる。龍門渕透華の話にどういう意図が隠れているのかさっぱり京太郎はわかっていなかった。

 ものすごく困っている京太郎に国広一が教えてくれた。

「僕が説明するよ。

 わかりやすい報酬は賃金さ。仕事をするとお金が発生する。それはヤタガラスでも同じなんだ。
 もしかしたら正式な構成員ではないから、もらえないと思っているかもしれないけど、今回は別だよ。何せ、龍門渕所属を示すエンブレムをつけて、戦ったわけだからね。

 たとえ須賀くんが正式な構成員ではないにしてもヤタガラスのエンブレムをつけて行動したのなら、それは龍門渕の成果になる。なら支払わなくてはならないわけ。

 でも、学生の須賀くんが大金を持つというのは非常に難しいことだよね。銀行口座もおかしなことになるし、書類だとかも面倒。下手に大金を持つと税金がかかる。ご家族に説明するのも難しいでしょ?

 そういう面倒を龍門渕が担当することになるけれど、そうなってくると離れられなくなるんだ。報酬が振り込まれたり、手渡された瞬間から、龍門渕関係者。周りからはサマナーだと見られるようになる。そうなると二度と表の世界には戻れない。

 これが、わかりやすい報酬のメリットとデメリット。

 ついでにわかりにくい報酬のメリットとデメリットも説明するね。

 須賀くんはね、裏の世界の面倒くさい人たちに顔が売れている状態なんだ。さっきの戦いはかなり派手だったからね。

 ヤタガラスといっても完全にまとまっているわけじゃないのはなんとなくわかってくれているよね? それで、やっぱり勢力争いってのがあるんだよ。そうなってきて、今の須賀くんはフリーだよね。どこにも所属していない状態の人材なわけだ。

 ほしくならない? このご時勢に珍しい武人タイプのサマナーで、機転も利いている。少し調べれば十四代目葛葉ライドウとつながりがあるのもわかる。となると、欲しくなるでしょ? 僕だったら、すぐに声をかけるね。実際誘ったし。

 でも、そういう声をかけられる行為ってのは面倒じゃない? 断るのも面倒で、ちょっかいをかけられるのも面倒。そこで龍門渕は君に提案するわけさ。もしも面倒ごとに巻き込まれたくない。一般人として生きていたいのならば、私たちの名前を使ってもかまいませんよと。

 これがわかりにくい報酬。すでに龍門渕に所属しているのなら、ちょっかいはかけにくいからね、ハギヨシさんもいるし。

 直接十四代目が引き抜きにきたら流石に無理だろうけど」



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