過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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25: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 05:30:02.74 ID:w4MVYybr0
 しかし次の瞬間にはその笑みというのは消え去っていた。

 一瞬の出来事である。ヨモツシコメが軍勢に命令を飛ばそうとした瞬間、ヨモツシコメの頭部が消滅したのだ。

 頭部が消滅したヨモツシコメもヨモツイクサの軍勢もマスターである沢村智紀も、何があったのか理解できていない。

 一方で少しはなれたところから、戦いを見ていたものたちは理解できた。

 実に単純な理由でヨモツシコメの頭部は消滅していた。京太郎の攻撃である。

 やり方は実に簡単だった。ヨモツイクサの群れを足場にして、一気に京太郎が間合いをつめたのだ。

 そして頭上を駆け抜けてヨモツシコメの肩に右足で着地、勢いを殺さず、サッカーボールをけるごとく頭部をけりぬいた。

 それだけである。大道芸じみたパフォーマンスを京太郎は披露したのだった。確かにこれだけでもすさまじいものがある。普通の身体能力ではできない行動だ。
 
 しかし龍門渕の面々の言葉を失わせるにいたった原因はその早さである。彼女たちはほとんど目で終えなかったのだ。けった瞬間は見えていたが、それ以外は怪しかった。

 京太郎がいの一番にヨモツシコメを狙ったのは、彼女が司令塔だと推測していたからだ。これはサマナー沢村智紀との会話を見ていればおよそ予想は立てられる。

 司令塔だとわかった以上、生かしておく理由はまったくなかった。ヨモツイクサたちの突き出している槍は恐ろしいものであるけれど、司令塔がいつまでも生きているほうがずっと面倒だったのだ。

 だから、始まった瞬間、命令を出す前に始末した。


 マグネタイトに戻っていくヨモツシコメを見ながら龍門渕の面々は理解した。

「もしもハギヨシが直接攻撃を禁じていなければヨモツシコメの代わりにサマナーの首が飛んでいただろう」と。

 まったく言葉が出ない龍門渕の面々とは対照的なのは京太郎の仲魔たちである。彼女らはずいぶん喜んでいた。

 ヨモツシコメの頭部が消失したところでアンヘルは拍手を始め、ソックは小さくガッツポーズをとっていた。

 彼女たちはほんの少しだけ気分を害していたのだ。自分たちのマスターはこの程度の悪魔の群れに敗北するようなものではないと。正直スカッとしたのである。
 
 

 戦闘開始から一分後、中庭には沢村智紀の呼び出した悪魔たちの姿はなかった。司令塔であるヨモツシコメが消えた瞬間に、勝負は決していたのだ。

 基本的なことだが、仲魔は命令がなければ動けない。ということは五十体のヨモツイクサの軍勢は沢村智紀の命令を受けなければ動けないということになる。

 勝手に動くと契約に反することになるからだ。

 先ほどはサマナーの命令権を譲られていたヨモツシコメが軍勢に命令を出していたのだが、それが消えた。ヨモツイクサが陣形を組んだのもヨモツシコメの合図があったからなのだ。しかし、頭が消えてしまった。

 となると、後に残るのは、自分の力で軍勢を率いなければならない沢村智紀と、常人が眼で捉えられないスピードで動き、攻撃を仕掛けてくる京太郎だけである。

 そうなっておきるのは命令を出す沢村智紀のスピードと攻撃を仕掛ける京太郎のすばやさ勝負ということになる。

 勝負の結果は京太郎の勝利だった。命令を出すスピードがあまりに遅く、命令を出せたとしても出したところからつぶされてしまっていた。

 結果一分間で軍勢消滅という惨事がおきてしまった。普段の指揮をヨモツシコメに任せきりにしていたために起きた結果であるともいえる。

 戦いが終わったところで京太郎は少しだけ呼吸を乱していた。流石に京太郎でも全力で動き回れば、息も切れるというものである。しかしその表情は晴れやかだった。スポーツを終えたスポーツマンのようなさわやかさだった。

 戦いが終わったことを確認したハギヨシがこういった。

「お見事でした。サマナーの弱点をすぐに見抜けたみたいですね。これなら向こう側でも十分に通用します。それでは準備をしてきますから、ここで待っていてください」

 こういうと、ハギヨシは姿を消した。自分の教えを受けた少女が敗北したというのに、彼はとてもうれしそうに笑っていた。

 自分が願っていた結果を京太郎が出してくれたからだ。

 最近だらけ気味の沢村智紀が冷静に戦ってくれるようになるのではないかとハギヨシは期待しているのだ。

 今回は京太郎が圧勝しているけれども用心深く沢村智紀が立ち回れば、九割がた彼女が勝つだろうとハギヨシは読んでいる。

 それほど難しい方法は必要ない。マグネタイトの総量が少ない京太郎に対して持久戦を挑めばいい。

 サマナーの一番得意な戦法である。沢村智紀の敗北の一番の原因は油断だ。

 ほんの少しのきっかけで敗北することがあるというのを、最近気の抜けている沢村智紀にハギヨシは思い出してもらいたかったのだ。



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