251: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 01:24:35.15 ID:py78Qnqv0
京太郎が影に開いた穴を見つめていると頼りない影は口を開いた。
そして声を発した。この声というのが実に不気味だった。ささやく声なのだが、一人の人間のものではない。
何十人、何百人の人間の声が重なっていた。そしてこういっていた。
「わ、私は…私は…」
口を開き始めた頼りない影に向けて、京太郎が稲妻の魔法を発動させ始めた。頼りない影を京太郎は確実に消し飛ばすつもりである。影の存在を許せなかったのだ。京太郎はこの頼りない影の声を聞いたとき、
「生理的に受け付けない」
という言葉の意味がはっきりと理解できた。こういうもののことをそう呼ぶのだろう。もともと消し飛ばすつもりだったのが、いっそうはっきりとした。
しかしできなかった。後一歩のところで頼りない影が、こういったからだ。
「私は、魔人になり、ました」
京太郎の集中していた魔力が一気にうせた。頼りない影が誰の話をしているのかわかったのだ。
そして、理解したとき京太郎は吐き気を覚えた。この吐き気がどこから来ているのかは、わからない。
しかしこの吐き気を覚えた瞬間、集中が乱れ、魔法は不発に終わった。
更に頼りない影は続けた。
「死へいざなう闇の中で見つけた稲妻。ヒヒイロカネとヤドリギよ私とともに生まれたまえ。
歩き始めた操り人形に幸あれ。幸運をもたらす妖精たちに幸あれ。畜生の道を歩いた者よ冒険の始まりを思い出し、操り人形の糸を切れ。
囚われたアムシャ・スプンタの分霊。命の理(ことわり)を知る泣かない巨人。激流に飛び込んだ私と結び、賭けに出るがいい。
さらば、灰色の日々。しるべなく生きる日々よ。悲しみに沈むものよ、泣いてくれるな。
私は人になったのだ」
頼りない影の声はやはり気味が悪かった。
大量の人の声が重なって聞こえてくる。頼りない影はひとつ言葉を吐き出すたびに、ひび割れて崩れていった。
最後のあたりになると、ほとんど消えかけていた。しかし崩れて消えかけているのに延々と言葉を吐いているのは、そうしなければならない理由があるからである。
頼りない影は最後に
「呪われろ悪魔め」
とはき捨てて消滅した。
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