過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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4: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 03:51:35.96 ID:w4MVYybr0

 須賀京太郎に、宮永咲は声をかけていた。

「京ちゃん? どうしたの」

宮永咲の声は震えていた。自分の知っている須賀京太郎というのはこんな少年だっただろうかと不安になったのだ。

「もしかすると背格好が似ている別人なのではないか」

 そう思うほど京太郎の見た目は昔と変わっている。灰色の髪の毛に人を寄せ付けない雰囲気。

学生服につけている腕章などさっぱり意味がわからない。三本足のカラスの紋章と、龍の紋章が刺繍されている豪華な腕章だ。

どこで手に入れたのかといって聞いても、教えてくれなかった。ほんの少し昔の京太郎なら、考えられないことだ。

また妖しい雰囲気など、発するような少年ではなかった。


 青ざめている京太郎を心配する気持ちはもちろんある。しかし、どんどん変化していく京太郎のことがわからなくなり始めているのだ。

 人は成長するものだ。宮永咲も成長したものの一人だ。小さなころよりも背が伸びている。いくらか女性らしくなっているだろう。

 誰と比べるのかでずいぶん印象は違うだろうが、きっと成長していると思ってくれる人のほうが多いに違いない。

 成長したからなのか、同い年の少年が子供っぽいとしか思えない時期もあった。小学校の高学年から、今に至るまで。

 年頃の少女にありがちな感覚である。成長というのは男女差があるけれども、そのスピードの違いで感じるわずかな優越感のようなものがあった。

よくあることだ。

 しかしタイミングの問題だ。変わらないものなどない。子供にしか見えなかった少年たちが成長する時期がある。

 春に花を咲かせる植物がこの世の全てではない。冬に花を咲かせ実を結ぶものも多くいる。これもよくある話だ。

 成長することがよくあることでも、追いつけなくなるという不安は恐ろしいものだ。肉体的な成長など、たいしたものではない。
 
 背が伸びたくらいで何が変わるのか。筋肉がついたくらいで何が変わるのか。

 問題なのは、心だ。精神的に成長し始めたものが成長しきったとき一体どんな存在となるのだろう。

「きっと自分が知っている彼のままではないだろう」

 そしてこんなことを思うのだ。

「自分は、置いていかれるのではないだろうか。肉体的な距離ではなく、精神的な距離を開けられて、永遠に近づけなくなるのではないか」

 そう思うと、不安でしょうがなかった。

「京ちゃん、どうしたの?」

という言葉は体調を心配しているというのもある。しかしそれ以上に彼女の不安がそのまま音になっていた。

 宮永咲が声をかけると須賀京太郎は反応を返した。軽い調子で、「大丈夫」といって笑っていた。

 そして、宮永咲に近寄ってきて、彼女の肩をポンと叩いた。宮永咲が知っているいつもの調子だった。しかし、なんとなく違っているのに彼女は気がついていた。

 宮永咲が戸惑っている間に、須賀京太郎は歩き出した。そのときこういった。

「みんなのところに戻るぞ。遅刻して敗退なんて笑えないぜ」


 プロローグ終わり。


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