52: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:56:39.49 ID:Joyq1BtQ0
京太郎がだずねるとベンチに横たわったおっさんがこういった。
「大丈夫だ。すまねぇな。ちょっと車酔いしただけだ」
いきなり話しかけてきた京太郎を一瞬にらんだ。そしてその後すぐに断りを入れた。
まったく面識のない京太郎が話しかけたことで警戒しておっさんはにらんだのだ。しかしすぐに悪意のある人間ではないと見抜いてしまった。
というのが京太郎があまりにも無防備だったからだ。ここまで何も考えずに近寄ってこられれば警戒心はもてない。
青い顔をしたおっさんがこういうと京太郎はほっと胸をなでおろした。
うめいているおっさんが何か病気にでもかかっているのではないかという考えも京太郎は持っていたからである。
もしもそうだったとしたら京太郎にできることなどひとつもないのだ。しかしただの車酔いならおとなしくしていればそのうちよくなる。
おっさんはつらいだろうが命に別状がないのならそれでよかった。
だが、京太郎がほっとしてもおっさんは苦しそうにしているばかりだった。京太郎がほっとしても、おっさんの車酔いが直るわけではない。
回復の異能力にでも目覚めていればどうにかできたのだろうが、残念ながら京太郎にそのようなまねはできない。
ということはおっさんは時間に任せるしかないということになって、うめくばかりなのであった。
しかしあまりにもおっさんが不憫に思えた京太郎は自分のウエストポーチから栄養ドリンクとタオルを取り出した。
そして青い顔をしているおっさんに、京太郎はこういった。
「あの、これどうぞ。きくかわからないですけど、よかったら」
自分の仲魔が持たせてくれた道具を使えばもしかしたらおっさんの調子も回復するのではないかと考えたのだ。
タオルを渡したのはおっさんが脂汗を額に浮かべていてどうにも大変な様子だったからである。
京太郎がタオルと栄養ドリンクを差し出すのを見たおっさんが微笑んだ。そしてこういった。
「すまねぇな。助かるよ」
京太郎からタオルと栄養ドリンクをおっさんは受け取った。そして一気にドリンクのふたを開けて、飲み干した。
ドリンクを飲み干したおっさんはこういった。
「かぁあ! やっぱりマッスルドリンコはきくな。大分よくなってきた。
しかしすげぇな、このマッスルドリンコは、効き目が段違いだ。坊主の心遣いのおかげかな?」
元気になってきたというアピールが強かった。おっさんは京太郎に報いようとしたのだ。お前のおかげでずいぶんよくなってきた。
心配してくれてありがとうというアピールである。しかし、気遣い以上に回復量というのも半端ではなかった。これも本当であった。
市販のマッスルドリンコよりも圧倒的に回復量が上がっていたのだ。しかしおっさんはつっこんきかなかった。回復量を上げる技術を持った人材というのは存在しているからだ。
顔色が回復してきたおっさんを見て京太郎は微笑んだ。さっきまで死にそうだったおっさんが急に元気になったのがうれしかったのだ。
落ち着いてきたところでおっさんがこういった。
「本当に助かった。礼を言うぜ。俺の相棒が買出しにいってくれているはずなんだが、もしかしたら迷っているのかもしれないな」
お礼を言いながらおっさんは名刺を京太郎に渡した。名刺にはマンサーチャーという言葉が書かれてある。そしておっさんの名前だろうサガ カオルという印刷が入っていた。
おっさんが名刺を渡してきたのは京太郎への礼のつもりなのだ。もしも、何か用事ができたのならば、自分に話を持ってきてくれという、一種のコネクションである。
マンサーチャーという言葉にものめずらしさを感じて京太郎は名刺をしげしげと見つめた。
そうしていると、パイナップルみたいな髪形をした女性が京太郎とサガカオルに声をかけてきた。パイナップル頭の女性はサガカオルとは違い少し派手な格好をしていた。片手にビニール袋を提げている。そのビニール袋からは品物がすりあう音が聞こえていた。
「あら、あんたもう大丈夫なの? せっかく薬を買ってきたのに。それにその子は?」
パイナップル頭の女性は京太郎に見覚えというのがさっぱりなかった。そしてサガカオルにヤタガラスのしかも龍門渕所属の知り合いがいるとはまったく思いもしなかったのである。
不思議な顔をしているパイナップルみたいな髪型の女性にサガカオルはこう応えた。
「俺の様子を見かねて、この坊主が助けてくれたのさ」
サガカオルはすっかり回復していた。顔色がよくなり、すぐにでも動き出せそうだった。
まだ額に脂汗が浮いているけれども、それもすぐに引いていくだろう。京太郎が持ってきたマッスルドリンコが思いのほかいい効果を発揮していたのである。
これほど早く調子がよくなるものだろうかと女性が不思議に思うくらいの回復の早さだった。
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