54: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 05:06:58.77 ID:Joyq1BtQ0
すばやいサガカオルを見て京太郎が呆然としているとパイナップル頭の女性がこういった。
「急に元気になっちゃって。ごめんなさいね。本当に」
あきれ気味であったが、喜んでいるようなところもあった。今までひどい顔色をして困っていた自分の相棒が、元気に満ち溢れて駆け回っているのだ。
そこそこ年齢を積んでいる人間がはしゃぎまわっているのは、どうにも言いようのない気分にさせるけれども、それはそれこれはこれという風情である。
あきれているようだけれどもうれしそうなパイナップル頭の女性に京太郎はこう返した。
「いえ、別にそんな」
苦笑いを浮かべていた。急に元気になったことに驚いたのではない。自分の目で追いきれないスピードでおっさんが駆け回ったのを驚いたのである。
自分自身もそれなりに動けるという自信が京太郎にはあったのだ。しかしサガカオルは更に上を行っていた。そしてなんとなくうれしくなっていた。
パイナップル頭の女性がこういった。
「そういえば自己紹介をしてなかったわね。私の名前はサガウララ。マンサーチャー、人探しを仕事にしているわ。
もしも何か聞きたいことがあったらこの名刺に番号が載っているから、ここにかけてね。
ヤタガラスとは何度か仕事をしたことがあるから気にせずにかけてくれたらいいわよ」
そういって二枚目の名刺を京太郎に渡した。サガカオルから受け取った名刺とよく似た名刺だった。
名前のところがサガウララとなっているところだけが違っている。
京太郎が二枚目の名刺を受け取ったところでサガカオルが帰ってきた。
首にかけていたタオルはすでになく、代わりに布に包まれた何かを小脇に抱えていた。サガカオルは短い時間の間に限定品のタオルと京太郎の手当ての礼を見繕ってきたのである。
そしてサガカオルは京太郎に抱えてきた布の包みを渡した。京太郎は手渡された布に包まれた何かを解いてみた。
すると布の奥に小さな拳銃が収まっていた。小さな拳銃はデリンジャーという種類である。
妙な金属で出来上がっていて人肌のような温度があった。京太郎はこの拳銃に触れたとき懐かしいものにふれたような気がした。
デリンジャーを京太郎に渡したサガカオルはこういった。
「オリハルコンで作られた拳銃だ。かなり質のいい武器で持ち主の魔力を吸って弾を作ってくれる。タオルとドリンクのお礼だ。もっていってくれ。
俺も相棒もつかわねぇからな。扱いに困っていたんだ」
サガカオルとサガウララが拳銃を使わないのは本当である。しかし、扱いに困っていたというのはやや嘘がある。
このデリンジャーをほしがるものは数え切れないほど存在している。売れば大金になるだろう。
これをあえてもってきたのは、京太郎から受け取ったものの対価としてちょうどいいものがこれだけだったからである。
オリハルコンでできたデリンジャーを京太郎が眺めているとサガカオルとパイナップル頭の女性はどこかに移動を始めていた。
サガカオルもサガウララも休憩していただけで別の用事があるのだ。ここは二人の目的地ではない。
京太郎に礼をすることができ、サガカオルの調子が復活した以上これ以上この異界にとどまる理由などないのだ。
二人が歩き始めたところで、京太郎ははっとした。そして二人の背中に京太郎はこういった。
「俺は! 俺の名前は須賀京太郎です。これ、ありがとうございます!」
離れたところにいる二人に聞こえるように名乗った。京太郎は自分が二人の名前を知っているのに、自分の名前を伝えていないことに気がついたのだ。
まだ自己紹介をしていなかったことに気がついて、あわてて名乗ったのである。
京太郎の名乗りを聞いたところでサガカオルがこういった。
「おう、じゃあな京太郎!」
サガカオルは足を止めずに、振り返っただけだった。サガカオルは笑っていた。京太郎が面白かったのだ。
また同じようにサガウララがこういった。
「じゃあね、須賀くん! 後、あまり大きな声で自分の名前を名乗っちゃだめよ。情報は大切に扱わなくちゃ」
サガウララも同じく立ち止まらずに軽く振り返るだけだった。サガウララもまた笑っていた。京太郎の無防備加減がおかしかったのだ。
しかしそれがまた面白かった。
京太郎は軽く頭を下げてから、その場を後にした。頭を下げた京太郎は、少し失敗したなという顔をしていた。
この異界に来る前にハギヨシから注意を受けたのを思い出したからだ。
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