過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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55: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 05:12:14.37 ID:Joyq1BtQ0
 ディーの運転する車に戻ろうとしたとき、京太郎は立ち止まった。きょろきょろとあたりを見渡していた。

誰かが自分を見ているような気がしたのである。しかし、危機感というのは京太郎からは感じられない。

どこからか視線を感じるけれども、その視線に悪意のようなものが混じっていなかったからである。

しかし感覚的なものであるから視線を感じるというところから含めて、勘違いというのも十分にありえた。

 しかし、一応感じたものは感じたのだということで視線を感じる方向に京太郎は視線を向けた。視線の先には石碑が立っていた。

石碑というのは展望台に来たときに見つけた石碑である。

 京太郎は不思議に思い、石碑に近づいていった。まったく警戒していない。普通に歩いていた。近寄っていったのは

「不思議だな」

と思っただけのことである。それ以上の深い理由はない。

 石碑はただの石碑であった。ドンと立っているだけの石碑である。特に文字が刻まれているわけでもなく、これといった魔術がかけられている雰囲気もない。

石碑に彫られているヘビのレリーフが妙にかわいらしい、くらいのものである。

 しげしげとヘビの石碑を見つめた京太郎は首をかしげた。というのが、ヘビのレリーフと目があっているような気がしたのである。

しかしあまり恐れというのは感じなかった。京太郎はヘビのレリーフが汚れていてそういう風に見えているのではないかと、あたりをつけることができたからだ。

 汚れで見え方が変わるかと思うところではある。

 しかし、人間の目というのは思いのほかあいまいである。ほんの少し手を加えるだけで同じものが別物に見えたり、別物が同じようなものに見えたりする。

このあたりはトリックアートなどを見てみればわかる。京太郎はそういう錯覚の技術について聞いたことがあるので、このレリーフもまた偶然の産物として錯覚を起こさせているのではないかと納得したのだ。

 そして少し考えてから、石碑にくっついていたごみを取った。右手を差し出して軽くごみを払っていった。

これまた、まったく理由はない。なんとなく汚れているなという気がしたから、軽く手で払ってみようかという気持ちである。

特に深い理由はない。いえるとしてもせいぜい、京太郎が綺麗好きだったというだけのことだ。

 そのときに指先が石碑に触れた。当然手でごみを払っているのだから触れる。そのときなのだ。

京太郎は気がつかなかったが、蛇のレリーフが少しだけ揺らめいた。生きているヘビのようなうごきだった。

しかし京太郎はその揺らめきに気がつかなかった。掃除に意識が向いてしまって、細かい変化を見逃してしまったのだ。

 かるく石碑をきれいにしてからディーが待っている車に京太郎は戻っていった。ディーの待つ場所へと戻って行く京太郎は、晴れやかな表情になっていた。

石碑の汚れを払うと、みずみずしくてきれいなヘビのレリーフが現れたからだ。


 京太郎が戻って来たときには、スポーツカーにもたれかかってディーが缶コーヒーを飲んでいた。

片手には携帯電話が握られていて何か操作している。ディーは京太郎が帰ってくるまでにハギヨシと連絡を取っていた。

そして異界の様子が変わりすぎているためにもしかしたら間に合わないかもしれないという話をし終わっていた。

 そうすると、ハギヨシが最新の情報を携帯電話に送ってくれたのである。しかし、変化が急すぎるので完全な地図ではない。

未完成の地図を携帯電話で確認して、センターに向けて一番いい道を選ぼうとしていたのだった。

ちなみに異界でも携帯電話が働いているのは、特別な中継基地が異界と現世の境界線上に作られているからである。便利な時代であった。

 京太郎が戻ってくるのを見てディーは一気に缶コーヒーをあおった。そして空になった空き缶を握りつぶして消した。

スチール缶を指先で縦につぶし、そのまま横につぶして、折り紙を折るような気軽さで、あっという間に小さくする。

そうして、手のひらに収まるところまで来たスチール缶を思い切り握り締めた。そうして手を開いたところには、もう何もなかった。

飲み終わったのはいいけれどもゴミ箱まで歩いていくのが面倒くさかったのである。だから握りつぶして、消し飛ばした。

 ディーが乗り込んで、シートベルトをつけ終わったあたりで京太郎は助手席に座った。そしてこういった。

「すみません、遅れました」

ディーがくつろいでいたのが見えていたのだ。その姿をみて自分が後れて待たせてしまったと思ったのである。

 謝る京太郎にディーがこういった。

「ぜんぜんだよ、むしろ早いくらいさ。それじゃ、いこうか」

ディーはまったく気にしていなかった。京太郎は時間通りに戻ってきたのだから。本当に、早かった。

 京太郎がシートベルトをつけるのを確認してアクセルをディーが踏み込んだ。目指すは、異界物流センターである。

 


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