過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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63: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 05:46:10.54 ID:Joyq1BtQ0
 ディーがハギヨシに電話を始めたので京太郎は氷詰めにされている女性を見ていた。

京太郎が女性を見つめているのは、暴走気味に高まっている感覚が妙にざわついていたからである。

どこからどう見ても女性は死んでいるようにしか見えないのだけれども、微妙に揺れているように感じられた。

それが京太郎の勘違いなのか、それとも死後硬直の影響なのかというのははっきりとわからない。しかしまだ何かおかしかった。

 自分の直感を信じた京太郎は女性のくびに手を当てた。もしかしたら、この女性は仮死状態なのかもしれないと考えたのだ。

氷詰めになっていると冬眠に近い状態になることがあると、聞いたことがあったのだ。

そしてもしもそうだったとしたら、助けなくてはならない。京太郎は首に手を当てて、鼓動を確かめようとしていた。

 女性の首筋に右手をそっと当てて京太郎は目を閉じた。感覚を右手に集中させているのだ。小さな鼓動があるとしたら、非常に小さなものだろうから、気合を入れる必要があった。

 数秒間集中していた京太郎が目を見開いた。京太郎はわずかな振動を捕らえたのである。

「まだ生きている」 

 鼓動を確認するとすぐに、褐色肌の女性を氷の中から京太郎は引っ張り出した。

氷でいっぱいになっている箱の中に両手を突っ込んで、硬くなっている褐色肌の女性を抱き上げた。京太郎はこの女性が生きていることを察し、そしてまだ仮死状態から回復させることができると信じたのだ。

魔法と悪魔が当たり前のように存在する世界である。ディーに女性が生きていることを話し、回復させられる可能性があるといえば、動いてくれるという確信があった。

 京太郎の突然の行動にディーが驚いて声を出していた。

「いったい何を!?」

 氷詰めになっていた女性を芝生の上にに京太郎は寝かせた。そして動いていない胸に耳をつけた。

京太郎の耳はかすかに響く心臓の音を聞き逃さなかった。この心臓の鼓動は、かなり小さなものだった。しかし間違いなく動いていた。


 電話片手のディーに向けて京太郎がこういった。

「まだ生きてます!」

 京太郎の報告を聞いて、ディーが珍妙な声を上げた。

「はぁ!? どうみても死後数時間たっていた! もう、川を渡っているはず!」

 しかしそれ以上ディーは聞き返せなかった。ハギヨシに電話が通じたからだ。

 混乱気味のディーを尻目に京太郎は女性を救うために動き始めた。ウエストポーチの中に入っているアンヘルとソック特製の薬品を京太郎は取り出した。

これで助かるとは思っていない。しかしサガカオルの回復の様子を見るにただのドリンクでないとわかっている。

 もしかしたら、ほんのわずかでも可能性があるのならば。そう考えた京太郎は、ドリンクをわずかに女性の口に含ませた。かなり無理やりな方法だった。

ビンの口の部分を、女性の口の部分に押し付けて飲ませていた。当然だが、かなりドリンクはこぼれてしまった。あわてて京太郎はドリンクを引っ込めた。

まだ三分の一ほどドリンクは残っている。

 全てこぼれたかと思われたドリンクだが、ほんの少しだけ女性の口の中に入っていった。

 ドリンクの効果は劇的だった。ほんの少しだけのドリンクで、冷え切っていた女性の体に熱が帯びはじめたのだ。冷え切った青から、赤く火照った肌への変化は京太郎の予想に答えをくれる。

間違いなく女性は生きている。そして、頼りになる仲魔のドリンクは命をつなぐきっかけになってくれると。
 効果が見えるや否や、京太郎は手段を選ばずに行動し始めた。

 京太郎は手に持っていたドリンクを口に含んだ。そしてこれを女性に飲ませたのであった。年頃の男子であるから、恥ずかしさというのがあるかもしれないが、まったく気にならなかった。

助けられるのならばという一念が恥ずかしさを吹っ飛ばしたのだ。

 京太郎が薬を飲ませるとすぐに褐色肌の女性が動き出した。閉じられていたまぶたが震えだし、全身が芋虫がもがくように震え始め、手足を動かし始めたのだった。

ヤタガラスの構成員なのだからそこらの一般人とは違った身体能力を持っているのだろうけれども、それでもこの回復の速さは劇的としか言いようがない。

アンヘルとソックが京太郎に渡した薬はずいぶんと強力だった。

 まだ震えている褐色肌の女性に京太郎は声をかけた。

「大丈夫ですか?」

恐る恐る声をかけていた。もしかしたら何かの後遺症が残っているかもしれないからだ。



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