66: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 05:56:59.55 ID:Joyq1BtQ0
ディーの提案に京太郎がうなずいた。まったく反対する気持ちなどなかった。
虎城が少し回復したことは見抜いていたがまだまともに動き回れるほど回復していないのが京太郎にはわかっていた。
これは京太郎の感覚的なものでしかない。なんとなく体の中にあるエネルギーが薄まっているように感じられるのだ。
ハギヨシやディー、天江衣を見たときに感じた巨大な太陽のイメージから考えると彼女のはろうそくの火のようなはかなさだった。
そして、もともと用事も済ませている京太郎にとって否定する理由などどこにもなかった。
さて移動するかというところで、虎城がふらついてしりもちをついた。
芝生にへたり込んでいた虎城は立ち上がろうとしたのだ。しかし腰を浮かせて立ち上がろうとしたところで動けなくなってしまった。
彼女は目を覚まし話ができるようにはなった。しかしまだ完全に回復したわけではないのだ。
肉体の欠損というよりはエネルギー不足なのだ。これではいくら万全であっても動き出せない。新品の車があったとしてもガソリンが入っていなければ動けないのと変わらない。
しりもちをついた虎城はもう一度立ち上がろうとしてまたふらついた。それをみて京太郎が虎城を支えた。
京太郎が虎城を支えたのをみてディーがこういった。
「いくらサマナーでも長時間氷詰めにされていたらそうなるだろうよ。須賀ちゃん、車を出入り口に回してくるから、虎城さんを運んであげてくれない?」
ディーは顔をしかめていた。虎城のマグネタイトがずいぶん消耗しているのに気がついていたのだ。ディーは思う。
「本当に自分たちがここに来なかったら、この人は死んでいただろう」と。
運がいいのか悪いのか。それを思うとどうにももやもやとしてしょうがなくなる。
ディーのお願いに京太郎はすぐにうなずいた。お願いをされるまでもなく、そのつもりだった。
ディーが先に歩いていくと虎城がこういった。
「ごめんね。もう少ししたら歩けるようになると思うから」
虎城は恥ずかしそうにつぶやいた。虎城は京太郎が自分よりも年下であると見抜いている。そのため自分よりも年下の構成員の前で情けない姿をさらすのが恥ずかしかったのだ。
後方支援をしている彼女はけが人をよく見てきた。そういうときに無茶をする人間というのもよくみてきている。そういうときにどうしておとなしく治療を受けてくれないのだろうかと思うこともあった。
しかし今になって彼女は彼らの気持ちがわかるような気がしていた。なんとなく恥ずかしい気持ちというのはこういうものなのだろう。
妙に恥ずかしげな虎城に京太郎はこういった。
「ぜんぜんです。気にしないでください」
こういう状況で、手を貸すのはおかしなことではない。悪い気もしない。そもそも氷詰めになった状態で何時間耐えたのかわからないのだ。
生きているだけで不思議である。これで当たり前のように動き回っていたらそちらのほうが不思議というものである。
そして、さっさと京太郎は虎城を背負った。実に滑らかな動きだった。
まずふらついている虎城の腕を自分の肩に沿わせるようにして、肩を組んでいるような形をとった。その姿勢から、あっという間に虎城の体を背中に滑り込ませた。そして京太郎の支えをなくして前のめりになっている虎城の勢いを利用して、一気におんぶの形までもっていった。
米俵のように担ぐことも考えたのだが、流石にそれは問題があるだろうと思ってやらなかった。おんぶの形をとったのは、いちいち虎城が歩いていくよりも自分が背負ったほうがはるかに早く安全だと判断したからである。
あっという間に虎城を背負った京太郎が歩き始めた。そうして数秒後、やっと背負われていることに気がついた虎城がこういった。
「須賀くん? でよかったんだよね。べつに仲魔に任せてもらってもいいんだよ? わざわざ須賀くんが運んでくれなくても」
おんぶされている自分がいるという状況が受け入れられていなかった。おんぶされるというのは子供のころ以来だった。
京太郎に仲魔の力を使ってもらってかまわないといったのは、まさかこういう扱いを受けるとは思っていなかったからだ。ヤタガラスの構成員なのだからサマナーに違いない。
違いないならば、荷物運びに仲魔の力を使うに違いない。そう思っていたところでまさかのおんぶを実行されたので彼女は困ったのだ。
そして思いのほかこのおんぶというのが恥ずかしかった。年下にというのもまた、拍車をかけていた。
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