過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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7: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:06:31.24 ID:w4MVYybr0
 
 部活動が始まって、数十分後のことだった。京太郎を染谷まこがほめていた。

「なんじゃあ、今日は調子がええのぅ」

無理やりにほめているというようなことはない。本当に感心しているのだ。

 というのが、京太郎と二人で麻雀を打っていると京太郎がまったくといっていいほど危険牌を出さないのだ。二人で勉強をしていたのでいろいろな問題を出していた。

 どれが危ないのかとか、相手の狙いはどんな形なのかとか。問題なので、それなりに難しいものばかりだった。

ひっかけ問題を出して失敗を誘うような状況がいくつもあった。しかしそれを、軽々と京太郎は超えていった。それを見て、彼女はずいぶんと京太郎の読みが上がったと感じたのだ。

 しかしほめられた京太郎は、苦笑いを浮かべていた。素直に受け取ることができていなかった。

 
 時間が少したち、竹井久が教えてくれるときがあった。染谷まこと交代して教えてくれたのだ。染谷まこも京太郎の世話ばかりをしているわけにはいかない。

後数日でインターハイ県予選が始まる。その大会で勝ち上るためには、彼女もまた力を高める必要があった。そのため、京太郎の練習を途中で竹井久に引き継いだのだ。

 そのときもまた京太郎はほめられていた。竹井久はこういった。

「すごい、牌が勝手に集まっているみたい」

 期待にみちていた。彼女がこういったのは、京太郎の勘が異様なほど研ぎ澄まされているのを実感したからである。

麻雀で思い通りの手配がくるなどということはめったになく、当然だけれどもどれだけ計算したところで運が絡むようになる。

偶然が絡むゲームのはずなのに、あっという間に役が完成するのだ。それが一度や二度ではなく何度も。これはもうとんでもない勘の冴えだった。

 しかしここでほめられた京太郎は、また同じように苦笑いを浮かべていた。完全に、悪いことをやっているという罪悪感が表情から見て取れた。

 しかしその表情を見て、京太郎が何かしているというように思ったものは少ないだろう。褒め慣れていないために、そういう顔をしたものだと思っているものばかりだった。

 京太郎が、心の底から笑えないのははっきりとした理由があった。京太郎にはどこに、何の牌があるのかわかっていたのだ。

これは超能力のように絵柄が透けて見えているわけではない。透けてはいないのだ。

 京太郎の目は牌についているわずかな傷を読み取ることができていた。しかしそれは、特殊な技術を使ったわけではない。練習をしたわけでもない。

 ぼろぼろのトランプでババ抜きをするとどうなるかという話だ。何度か繰り返してゲームを続けていたら傷で絵柄が判断できるようになると思うのだが、それが麻雀牌でおきていたのだ。

 しかし普通の感覚ではわからないような傷である。ほとんどの人はかまわないものだとしてゲームをはじめるだろう。麻雀部の部員たちと同じように。

 しかし研ぎ澄まされた感覚の前にはあまりにもわかりやすい目印だったのだ。目印がついていれば、どれを出せばいいのかいやでもわかる。これを上手く使えば、勝負には勝てるだろう。しかし、京太郎はいい気持ちにならなかった。

「これで勝負に勝ってもしょうがない」

 というのが京太郎の気持ちなのだ。やるなら、正々堂々、うしろめたくないようにしたかった。たとえ、敗北するとしてもかまわないのだ。後味の悪いものはよくなかった。

 また、麻雀部の面々には聞かせられない感情も心の中に生まれていた。生まれた感情とは「退屈」である。どうしようもない退屈を麻雀に感じていた。今の京太郎にとっては作業なのだ。絵柄が見えているまま続ける神経衰弱だ。今まで楽しめていたものが完全に色あせて見えた。



 部活動の終わりを告げるチャイムが鳴った。そのとき片岡優希が携帯電話を取り出して操作をし始めた。しかしすぐにこういった。

「なぁー、京太郎。メールの返事が届いてないみたいなんだけど、どうしたんだじぇ?」

 京太郎に話しかける片岡優希は、おびえていた。実は京太郎が事故にあったことを知ってすぐに京太郎に連絡を取ろうとしていた。今日の昼のことである。しかしまったく京太郎からの返事はなかった。

「きっと見舞いに来なかった薄情な自分に怒っている」

 はじめはそう思っていた。しかし、いつも通りに接してくる京太郎を見て、予想が違っていることを知った。おそらく、携帯電話の電源でも切ったままなのだろう。

 そう納得した彼女は京太郎に放課後は一緒に帰らないかとメールを送っていた。

「タコスでもおごってやろう。回復した祝いとして」

 しかし、まったく返事がないので、直接ききにきたのだ。やはり少し怒っているのかもしれないという、恐れの気持ちはここから生まれていた。

 片岡優希の質問を受けた京太郎はこたえた。

「携帯? あぁ、そうだった。壊れたんだよ。どこで壊れたかはわからんけどな。週末にでも見に行かなくちゃ」

 京太郎は笑っていた。まったく嘘はない。学生服も学生かばんも教科書のいろいろもなくなってしまった。そしてもう少し正確に言えば、携帯電話と学生服に関していえば、炎にあぶられたときに壊れてしまったのだというようになる。

 


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