84: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/14(火) 04:45:15.04 ID:KlUD8s2/0
ディーのうなずくのを合図に京太郎は助手席の窓から体を乗り出した。びゅうびゅうと風が吹いていた。京太郎の髪の毛が風に吹かれてゆれていた。
しかし京太郎の体は少しもぶれなかった。京太郎はこれから、デリンジャーという小さな銃を使って装甲車たちを足止めするつもりなのだ。しかもはじめて使う武器を使ってである。無謀だった。しかし、これしかなかった。京太郎の目に恐れはない。
一方で、体を乗り出した京太郎を見て虎城は驚いていた。顔色が真っ青だ。目を大きく見開いていた。虎城は見てしまったのだ。何の支えもない状態でスポーツカーの窓から京太郎が上半身を外に出している姿を。
デリンジャーで装甲車を迎撃するという行為より無謀だった。
彼女はすぐに悪い未来を予想した。その未来とは、京太郎が何かの振動でバランスを崩し車の外に落ちていく未来である。シートベルトもなしに高速で動いている車の外に身を乗り出すのだ。装甲車に追いつかれるという以前の問題として危なかった。
虎城はあわてて京太郎の下半身にしがみついた。かなり無茶な体勢に彼女はなっていた。助手席のシートを乗り越えるようにして京太郎の体にしがみついているのだ。しかし彼女が今できることといえば、このくらいのものだった。
車から身を乗り出した京太郎は、サガカオルから受け取ったデリンジャーの引き金を引いた。タックル気味にしがみついてきた虎城のことなどさっぱり気にしていなかった。
京太郎の目はよく物を捕らえていた。鋭くとがってしまった感覚が、役にたっている。この拳銃を渡してくれたサガカオルは京太郎に教えてくれていた。
この拳銃は特殊な金属でできていると。そして、特殊な効果があると。
「この拳銃は魔力を吸い取って弾を作る」京太郎はサガカオルの話を信じていた。
引き金を引いた直後、追いかけてくる装甲車の一台が動きを止めた。分厚い装甲に小さな傷跡が出来上がっている。五円玉ほどの傷跡だ。この傷跡は先ほどまでなかったものである。
京太郎がつけたものだ。京太郎の手のひらにあるデリンジャーの弾丸が装甲車を貫いたのである。そしてその貫いた弾丸が、装甲車の心臓部分を壊してしまった。そうして装甲車は動かなくなった。
的が大きかったために、そして多かったために京太郎の腕前でも簡単に当てることができたのだった。心臓部分に当たったのはたまたまである。
装甲車が一台動かなくなったところで、さらに京太郎は引き金を引いた。京太郎は笑っていた。楽しそうだった。引き金を引くときに自分の体から魔力が奪われているのも、思いのほか銃弾が当たらないのも面白かった。
オリハルコン製のデリンジャーが京太郎の性質に引っ張られて稲妻の力を宿しているのはどうでもいいことだった。
足止めが一番の目的と頭の中にしっかりとある。それをやり遂げなくてはならない。追いつかれたら面倒くさいことになるのだから、そうしないとまずい、とは思う。しかし、全力で戦うのは楽しくてしょうがなかった。
一台また一台と装甲車が動かなくなっていった。そしてついに追いかけてくる装甲車はなくなった。あっという間の出来事だった。京太郎が引き金を引く。銃弾が装甲車に当たる。装甲車は動かなくなる。
外れることもあった。しかし何度も繰り返していると大きな装甲車に弾が当たるのだ。そしてあっという間に終わってしまった。
京太郎はすこしも銃の練習をしたことがない。普通の高校生である。少し身体能力が高いだけだ。そもそもデリンジャーというのは長い距離で使うものではない。近い距離で使う護身用の銃である。
今回のようなまねができるわけがない。しかしできてしまった。これにはいろいろな理由があった。大きく分けて理由は三つ。
一つ目は装甲車が大きかったこと。的が大きいためにあたりやすい。
二つ目。道が狭くよけるということができなかった。たくさんの車で追いかけてくるのはよかった。しかし、ほかの利用者たちを潜り抜けて上手く弾丸をよけるというのは無理だった。ほかの利用者たちをよけて移動をするので的がどこに移動するのか予想がつきやすかった。
三つ目、オリハルコンのデリンジャーを京太郎が手に入れたこと。稲妻の魔力を持った京太郎から魔力を引っ張ったおかげで、弾丸が稲妻の力を持つことになったのである。装甲車を完全に破壊することはできないが、走行不能状態に持っていくことくらいはできるようになっていた。
結果、装甲車たちは大きな的にしかならなかったのだ。
追っ手の装甲車がなくなったところで、京太郎は体勢を戻した。上半身を揺らして、少しずつ体を移動させた。追っ手がいなくなったのだ。これ以上無理な体勢でいる必要はない。それに、いつまでも虎城にしがみつかれたままではいられない。
スポーツカーの中に戻ってきた京太郎に、電話をしながらディーが親指をぐっと立てて見せた。ディーは後ろから追ってきた装甲車が見えなくなったのを確認していた。
これで、龍門渕まで安心して戻ることができる。戦闘での被害を出すこともなくなる。いいこと尽くめだった。
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