85: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/14(火) 04:49:54.13 ID:KlUD8s2/0
少しはましになるかとほっとしたところで、虎城が悲鳴を上げた。小さく短い悲鳴だった。彼女は自分たちを追いかけてくる怪物の群れをみたのだ。
スポーツカーを追いかけてくる怪物の群れは松常久の部下たちが呼び出したものだ。装甲車が一時的に使えなくなったために仲魔を使うことで京太郎たちを追い込もうとしたのである。
この怪物たちというのはまったく統一感がなかった。羽の生えた怪物、四足歩行の怪物、半分透けているような怪物と、とりあえず呼び出したという感じがしてしょうがない。まともに統率された軍団ではなかった。
しかし、数が多い上に殺意を隠していないというのは、なかなか迫力があった。自分を食らおうとする百鬼夜行というのを真正面から見れば、虎城のような気持ちになれるだろう。
虎城の悲鳴を受けた京太郎は先ほどと同じように助手席から上半身を出した。興奮のために頬が赤くなり、目には力が満ちていた。京太郎にとって追いかけてくるものが装甲車から悪魔の軍勢に変わっただけなのだ。
「追いかけてくるというのならば、くればいい。魔力が尽きるまで、弾丸を撃ち込んでやればいい。
そして、魔力がなくなり、追いつかれてしまったのなら、拳で相手をすればいい」
わかりやすい修羅場だった。しかしわかりやすい修羅場であったからこそ、心が高ぶるのだった。楽しくてしょうがなかった。
身を乗り出した京太郎を見て虎城はこういった。
「気をつけて相手も本気だよ!」
京太郎に注意をするのとあわせて、京太郎が飛んでいかないように虎城がしがみついた。結構無茶な姿勢をとる羽目になっている。シートを倒せばいいのだけれども、それをやるだけの腕の長さがなかった。
かなりつらい姿勢であるけれども、ここで京太郎をどこかにふっ飛ばしてしまうわけにはいかなかった。ここで振り落とされたらどうなるか。誰でもわかるだろう。なぶり殺しにされるだけだ。
自分の身を案じる虎城にかまわず京太郎はまた同じように拳銃のトリガーを引いた。京太郎はほとんど狙いをつけていなかった。とりあえず銃口を向けて、とりあえず引き金を引くという調子である。
しかしこれで十分だった。追いかけてくる悪魔たちがあまりにも多いからだ。そして馬鹿の一つ覚えのように追いかけてくるばかりである。
それこそ後ろから壁が追いかけてくるような調子だった。こんなもの、銃口を向けて引き金を引けば、いやでもあたる。いちいち頭を使う必要がなかった。
今回も気持ちのいい勢いで悪魔たちがつぶれていく。しかし京太郎の表情は暗かった。興奮から冷めていた。しかし引き金は引きっぱなしである。京太郎の興奮が冷めているのは、あまりにもつぶさなくてはならない悪魔が多かったからである。
いくら落としても新しい悪魔が現れてくる。十匹、二十匹くらいならいい。しかし追いかけてくるものたちはまだまだ多い。減らないどころか数を増やしてくる。時間がたつにつれて、追いかけてくる悪魔が増えていくのだ。
比喩ではなく京太郎の目に映っている空は追っ手の悪魔で埋め尽くされていた。これをすべて落とすのは骨が折れそうだった。オリハルコンのデリンジャーはそれなりの威力がある。しかし制圧するには攻撃範囲が狭すぎた。
数が多すぎることに京太郎が困っていると、ディーがこういった。すでに携帯電話は切れている。
「二人ともこれからの方針が決定した。
俺たちはこれから全速力で龍門渕に向かう。相手がどれだけの戦力を用意しているかわからないから消耗戦はやらない。
無視して突っ走る。これから俺は、全力で車を運転するから気持ち悪くなっても我慢してくれ。いくぞ!」
ディーは少しだけ不満げだった。ハギヨシがディーの提案をけったからだ。しかしそれもしょうがないことである。というのも龍門渕もライドウもハギヨシも、内偵を行っていた構成員が行方不明になった事件を完全に把握仕切れていないのだ。
そのため、安易に松常久を始末するという決断を下せなかった。特に準幹部クラスの人間であるから、下手に手を出すのは後々の不利になる可能性があった。
そのため、事件の状況が把握できるまでハギヨシはディーに手を出すなと命じたのである。
ディーはこういうと京太郎に目で合図を飛ばした。京太郎はこの合図が車の中に戻れという合図だと理解した。
これか京太郎から見ても無茶な速度で、道だけで作られている異界をディーは駆け抜けるつもりなのだ。流石に京太郎でも身を乗り出したままではいられないだろう。
京太郎が車の中に戻ってくると、スポーツカーが急加速を始めた。風をまとい駆け抜けていく。デジタルスピードメーターの数字が跳ね上がり続ける。
また、加速が始まったところで、虎城の顔色が非常に悪くなっていた。蝋人形のような顔色である。
体調の優れないところに無茶な加速がかかったためで、車酔いの症状が出始めたのだ。ディーの運転するスポーツカーに平然と乗っている京太郎がおかしいだけで、これが普通の反応だった。
急加速が始まるとほとんどの悪魔たちが追いつけなくなった。道を走っていた悪魔たちは次々とはるか彼方に引き離されていく。馬のような姿の悪魔もいたけれども、ディーのスポーツカーには追いつけなかった。
しかしそれでも追いかけてくるものがあった。空を飛ぶ悪魔たちである。空を飛ぶ悪魔たちもかなり引き離されていた。しかし地上の道を走るよりも空を行くものたちのほうが障害物が少ないために、何とか追いついていられた。
空から来る悪魔たちが魔法攻撃を仕掛けてくると、ディーが京太郎にこういった。
「須賀ちゃん、悪いけど、けん制してくれ。うっとうしくてかなわん」
スポーツカーが、何度か揺れた。スポーツカーに魔法が直撃したからではない。悪魔たちの打ち込んでくる魔法が、道を削ったからである。そのため、スポーツカーが大きくゆれることになった。スポーツカー自体は非常に硬いのでびくともすることはない。しかし、道が削られてしまえば、流石に影響があった。
ディーのお願いを聞いた京太郎は体を助手席でひねり、デリンジャーを乱射した。今回は腕だけしか外に出していなかった。助手席で体の位置を変えて、虎城と向き合うような格好を取ったのだ。そして、右腕だけを出して、引き金を引いた。狙いなどつけていない。とりあえず打ち込むだけだった。
流石に千キロ近い速度で走っている車の外に身を乗り出すような馬鹿な真似はできなかった。
265Res/788.70 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。