過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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86: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/14(火) 04:54:29.04 ID:KlUD8s2/0

 何十回と引き金を引いたあと、少ししてから空を飛ぶ悪魔たちが落ちていった。まだまだ空を飛ぶ悪魔は多い。空はほとんど追いかけてくる悪魔たちで占められている。しかしそれでも何匹かの悪魔は落ちていた。

 京太郎の乱射が続いた後、空を飛ぶ悪魔たちからの攻撃が緩んだ。そうするとスポーツカーが一瞬、無重力状態になった。何が起きたのか把握できたのはディーだけだった。

 ディーは叫んだ。

「オロチを動かしやがった!」

目の前の道が大きくうねり姿を変えたのをディーは見たのだ。

 ディーが叫んだ次の瞬間だった。スポーツカーは奈落に落ちていった。スポーツカーの行く先に道はなかった。

松常久たちがオロチを動かしたため、大きく道が変わり車が走れる道が失われたのである。目の前にあるのは大きな穴。奈落に続く真っ暗闇である。
 



 長い長い落下の後、車は地面に着地していた。着地といっても上品なものではない。子供がゴムボールを地面に力づくでたたきつけて遊んでいるようなそんな着地である。

走る道を失ったスポーツカーはまっさかさまに落ちていったのだ。かろうじて風の魔法ガルーラを使い姿勢を制御したのだが、それでも完全に勢いを殺せなかった。

しかもずいぶん深いところまで落ちたらしい。まったく光がなかった。真っ暗闇で、上空のはるか彼方にかろうじて薄明かりが見えるだけだった。そして、着地の衝撃で土煙が舞い上がっていて、妙に空気が重たかった。

 着地から数秒後ディーが声を出した。

「みんな大丈夫か? くっそ……どれだけ落ちた?」

 ディーは目を閉じて、ハンドルを握った。するとスポーツカーのエンジンが再び動き出した。スポーツカー自体が破壊されることはまずありえないという自信がディーにはあった。

しかし車の中に乗っている者たちが無事であるかというとなかなか難しい。京太郎はともかく、虎城は後方支援担当のサマナーである。落下の衝撃を受け流せず怪我をしているかもしれないのだ。それが心配だった。京太郎もディーも攻撃に特化していて、回復にはまったく役に立たないのだ。

 ディーがこういうと京太郎は応えた。

「大丈夫です」

 シートベルトをはずしていたために京太郎はずいぶん助手席から離れたところにいた。京太郎がいたのは、虎城の上である。京太郎はちょうど虎城に覆いかぶさるような格好で、スポーツカーの不思議な空間の中にいた。

京太郎の状態は悪くない。特にこれといった怪我は見当たらない。落下の衝撃で体を天井にぶつけたくらいのものである。

 スポーツカーの中にいるもう一人、虎城は声が出せていなかった。京太郎に覆いかぶさられて、固まっていた。腐ってもサマナーであって重大な怪我をしているようには見えなかった。しかしこれは、虎城が体術に優れていたからではない。落下の瞬間に京太郎が彼女を押さえに向かったためだ。

 そのため、まったくといっていいほど怪我を負わなかったのだ。虎城はスポーツカーが落下したということもはっきりと理解していないし、そもそもどうして京太郎が自分に覆いかぶさっているのかというのもわかっていなかった。

今の自分が置かれている状況と、周りの状況とを照らし合わせて、かろうじて何が起きたのかを予想するだけしかできなかった。

 あっという間出の出来事だったのだ。これに対応できたディーと京太郎がおかしいだけである。

 いつになっても口を利かない虎城の様子を見て京太郎がこういった。

「大丈夫ですか?」
 
 ずいぶん不安そうな表情を京太郎は浮かべていた。覆いかぶさっていた姿勢を変えて、虎城のそばに腰を下ろした。京太郎は虎城をかばいに動いていた。完全にクッションの役割を果たしていたはずである。

 しかしもしかしたら、怪我をしているかもしれない。見えないところに怪我を負っていたら、たとえば頭に衝撃を受けていたら、動けなくなるということも考えられた。

 不安そうな京太郎がこういうと、虎城はこのように返事をした。

「大丈夫大丈夫。なんか、ごめんね。助けてもらっちゃって」

 虎城は体を起こして微笑を浮かべた。そのときに、虎城は腰を撃っていることに気がついた。

「腰を打ったみたいね。須賀くんがかばってくれてなかったらやばかったかも」

 虎城は不安そうにしている京太郎にこういった。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。私は後方支援担当だからね。後方支援にまわされる異能があるの。みてなさいな」

 そういって笑うと、虎城は呪文を唱えた。

「ディア」

 回復していく虎城をみてディーがこういった。

「異能力者で回復系は珍しいな」

 ディーは虎城と京太郎の様子を確認しながら、周囲の状況も確認していた。スポーツカーのヘッドライトを全開にして、真っ暗闇の中を照らしていた。しかし土煙があまりにも舞い上がっているためにヘッドライトの光がぬるくなり先を照らせていなかった。動き回るにしても土煙が収まらないと、どうにもなりそうにない。

 ディーの指摘を受けた虎城は笑いながらこういった。

「よく言われます。バリバリの修羅場を体験するなんて初めてですよ。私の班は完全な後方支援専門で前線には上がりませんでしたから」

 京太郎にもう大丈夫だと虎城はアピールしていた。京太郎が心配されているのがくすぐったかった。というのが自分よりも年下だろう京太郎に心配されるというのが年上のプライドを刺激したのだ。サマナーの世界で年功序列などという考えは、ないようなものである。強くなければ生きられない世界、実力主義の世界だ。しかしそれでも年上の意地みたいなものはあった。



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