99: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/14(火) 05:44:11.20 ID:KlUD8s2/0
ディーの説明を聞いた虎城は顔色を真っ青に変えてこういった。
「神話の時代? つ、つまり……真正の魔人? 確かにそれなら理屈は通るけど、そんな馬鹿な話があるわけがない。
不死性を捨てるリスキーな契約を結ぶ悪魔がいるわけがない。それに、仮にそうだったとしたら、須賀くんは魔人?
真正の魔人の情報が上がって来てないってどういうこと?」
先ほどであった奇妙な女性悪魔を前にしたときよりもずっと顔色が悪くなっていた。助手席に座る京太郎をまっすぐに見れなくなっていた。
虎城は京太郎を恐れたのだ。魔人というのが非常に厄介なものであるというのもわかっているし、神話の時代の契約というのがどういうものなのか虎城は理解していた。
だから怖いのだ。わかるから怖い。
もしも虎城が、まったく何も知らない状態であれば、なんとも思わないだろう。そういう契約を結んだのだくらいの気持ちにしかならない。
魔人だといわれても、それがどうしたのかといって終わってた。
わかるから怖いのだ。サマナーである虎城は知っている。神話の時代の契約と、神話の契約で生まれてくる魔人という存在の危なさというのを知っている。知識が恐怖になっていた。
京太郎が何をしたわけでもないので怖がるのは筋違いではある。行動だけを見れば、京太郎は命を救っていたり助けていたりするわけだから、どちらかといえば良いタイプだ。
しかし、怖いものは怖いのだ。彼女は京太郎のことを理解して、恐ろしくなって、青ざめたのだった。
虎城が黙り込んでしまった。京太郎も、ディーも黙っていた。そのまま重苦しい空気に包まれたまま、スポーツカーは進んでいった。
京太郎もディーもさっぱり気にしていないようで進行方向ばかりを見ていた。ディーは前に進むため、京太郎は気持ちのいい景色をよく覚えておこうという気持ちがあったためである。
また虎城が自分のことを怖がっているのに気がついているので、特に京太郎は何もしなかった。
入院している間に十四代目から魔人という存在について教えてもらっているのだ。もしも自分が普通の人間であったら、きっと魔人のことが恐ろしくてしょうがなかっただろうと思う京太郎だったので、虎城のことはしょうがないと割り切っていた。
重苦しい空気のままで五分ほど走ったところ。青空と草原の異世界の道半ばでディーがこういった。
「おっと、どうやらまた用事があるらしい」
視界の中に一メートルほどの岩が見え始めたのだ。はじめはひとつ。次には二つ。次には三つ。どんどんと岩が増え始める。先に進むにつれて増えていく岩たちが何を示しているのか、ディーはすぐ思い当たった。京太郎と握手を求めた奇妙で怪しい女性だ。
引き返えすという選択肢はディーになかった。バックミラーに写る光景を見たからだ。前に見える岩よりもはるかに多い岩が道をふさぎ始めていた。ディーはこれを
「前に進め、逃がさないぞ」
という怪しい女性の意思と受け取っていた。
怪しい女性の介入をディーが感じ取ったのとほとんど同時に、京太郎の目が見開かれた。への字に結ばれていた口元が釣りあがり、笑みを作っている。獣のようだった。
今まで穏やかだった京太郎に一気に活力がみなぎり始めた。車の中の重苦しい空気が一気に吹っ飛ぶ情熱が京太郎から発せられていた。京太郎もまた怪しい女性の介入を感じ取ったのだ。
視界に増えていく岩。その先に待っているのは間違いなく怪しい女性だろう。二度目なのだ。いやでもわかる。
京太郎はこう思ったのだ。
「雪辱戦だ。手も足も出なかった相手にもう一度挑むことができる」
別に戦っていたわけではないのだから、雪辱戦も何もない。ただ、握手に反応できなくて悔しいと思っているだけである。しかし、やられたという気持ちが京太郎にはある。
馬鹿な話だが、悔しいのだ。反応することもできない自分が悔しくてしょうがない。やはり、やられっぱなしは悔しい。
せめて反応したい。全力で反応したいのだ。せめて視界に納めたい。実に頭の悪い望みである。しかし本当に反応さえできなかったのが悔しかった。
そんな悔しい思いをした相手ともう一度出会えるかもしれない。獣みたいな顔にもなる。
京太郎が獣じみた笑みを浮かべるのを運転席のディーは苦笑いで受け止めていた。京太郎のような笑みを浮かべる人間をディーはよく知っていた。
こういうタイプの人間が口で何を言っても止まらないというのも知っていた。そして大体において自分が手を貸す羽目になるというのもわかっていた。
そのため、ほとんどあきらめに近い感情で京太郎の援護だとか、もしものときの対処というのを考え始めたのであった。
無限に広がっていた草原が一メートルほどの岩でどんどん埋め尽くされていく。岩で埋め尽くされる道を京太郎は見つめていた。道の先を睨んでいる。しかしそれは憎しみからではない。頭を働かせているのだ。
どうやって怪しい女性に対抗するのか。どうやって視界に捕らえるのか。必死で、どうにかしようと頭をひねっていた。
怪しい女性が、もう一度京太郎の前に現れてくれるという保証はない。まったく別の誰かが現れる可能性もある。しかしもしも怪しい女性であったとしたら、どうにか対応したい。
対応するためには今のままではいけないのだ。今のままならまた反応できないまま終わるだろう。それはだめだ。だから必死になって考えるのだった。
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