9: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:21:29.93 ID:zAK3ZPJb0
そんな私の耳に、山中先生の声がする。
「それでは、校歌の斉唱です。全員、起立して下さい」
会場にざざ、とパイプ椅子を揺らす音が響き渡る。
あれ、山中先生がピアノ弾くんじゃなかったっけ……でも、ピアノはあの舞台の上だし……
アナウンスをしたはずなのに、ピアノを演奏するはずの山中先生がそこから動かない。
それどころか、私たちが立ち上がるのを待つようにじっとこらえているようにも見えた。
練習の時になかった、その奇妙な間に、段取りを知っているわたしたちはざわめき出す。
すると、マイクの前に立っていた山中先生は、それまでの猫をかぶったような声ではない、
楽しそうに弾んだ少女みたいな、それでいて悪い魔法使いみたいな声で、こう言った。
「今日は特別に、校歌を演奏してくださる方をお呼びしました……それでは、どうぞ!」
するとそれまで閉ざされていた舞台の幕が開く、するする、開いていく。
オーケストラでも呼んだのか……な……。
「……!」
秘密のベールを脱いだ舞台の上には、オーケストラなんていなかった。
そこにあるのは、いくつものアンプに、キャビネット。左右の大きなスピーカーに、
黄色いドラムセット。大中小、3台のキーボードとマイクスタンドが5本。そして−−。
わたしたちが着ている制服と少し違う制服を着ている、5人の女性−−。
フィードバックの音色が空気を歪ませるように、ざわめく。
わたし、知ってる。あの人たちが誰か。
わからないわけがない、知らないわけがない。
いつも、ステージが始まる前はああやって5人は向かい合うようにして、
前の3人−−ボーカルふたりと、ギタリストは客席に背を向けてるんだ。
わたし、知ってる。この後どうなるのか。
後ろを向いていた3人はうさぎが跳ねるように振り返って、それから、それから−−。
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