過去ログ - モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12
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403: ◆R/5y8AboOk[sage saga]
2015/08/14(金) 03:51:31.35 ID:+FUAmXwk0

「全く、油断ならんな…」

 冷や汗を拭おうとしてヘルメットに阻まれ、出鼻を挫かれた思いでヘルメットを外した隊長は溜息混じりの声を吐こうとして、その瞬間、CSGが新たに反応を検知したことを伝えるアラームがその息を詰まらせた。

「隊長!上です!」

 即座に飛んだ部下の声が言い切るよりも早く、視線を上空へと振り上げれば、蒼い付け髪を唯一の色としてしならせる、蝙蝠を思わせる翼を翻した漆黒の人型と刹那の間視線が交錯する。
 あどけない色の奥から混濁した狂気が突き刺さり、血の気を引くも一瞬、不吉の前触れめいて揺らめいた右手を見た彼は、思わず目を食いしばって防御の姿勢をとっていた。
 直後、一閃された右腕から漆黒の釘が降り注ぎ、苦し紛れの盾と突き出したナイフを掠め、不快な金属擦過音と肩のアーマーで何か打ち付けた衝撃が彼を襲う。生きた心地のしない音が鼓膜を伝った。

「姑息な…!」

 牽制に怯んだ隙を狙い、漆黒の鎧を纏う影は何よりも恐ろしいその腕力を振りかざして急接近を仕掛ける。はっとする思いで引き金を引くや、直後に横合いから突き刺さった味方の火線と交差してカースドヒューマンの接近を阻む。横ロールで弾幕をすり抜けた敵はそのまま明後日の方向に転進すると、こちらを狙う猛禽のように旋回を始めた。

 CSGの反応に無かったのは、野望の核の強い反応で自らを覆い隠していたためか。だが、今となって視認できる反応、その体に宿る核は七つ。一つ一つは小さく、少々異様ではあるが、間違いない。カースドヒューマン。節度を忘れ、力と引き替えに呪いに堕した怪物───。

 逃げず、追わずの距離を飛び始めた敵を追い立てる弾幕を見据え、取り落としそうになる手付きで無線機を立ち上げる彼は「セーフリーダーから本部、カースドヒューマンが出現した、現在交戦中…!」。
 逸る気持ちを押し殺して紡いだ言葉に、『了解した、少しだけ持ちこたえろ』との事務的な声を聞いた隊長は、無性に湧いた苛立たしさに任せてせっかちげに通信を打ち切った。

 必死に敵を追い込もうとする部下四人の弾幕は、突如の奇襲にも混乱には陥らず、規定のフォーメーションに則った戦術を採ってくれていると見えた。機動力を自慢とする敵の場合、三人が回避行動を押し付け、残る二人が───この場合一人が偏差射撃による撃破を狙う。幾度となく鍛練を重ねた技術。彼ならば、例え誰が欠け、役割を入れ替わったとて十分にこなしてみせるだろう。ただの人間と侮って仕掛けたことを、後悔させてくれる。
 攻撃役の火線に意識を振り向け、味方の方へと前進する。マークした一本の砲火がカースドヒューマンの紙一重を捉え、小さな旋回で回避を試みる一瞬を見定めたセーフリーダーは、その瞬間に重ねトリガーにかけた指を握り込んだ。
 途端、まったく別方向から飛来した弾丸に狙い撃たれ、つんと急制動をかけたカースドヒューマンの戦闘機動に乱れが生じる。その体を一点に睨みながら、さらに前へ進み、手榴弾を放り込んだ。曳光弾の光に紛れて濃緑色の塊が弧を描き、弾幕の包囲陣に絡まれて限定される敵の予測軌道上に躍り出た。
 目の前に投げ込まれた範囲攻撃兵器の脅威に身を縮ませた敵の挙動が鈍り、一瞬。再度速度を殺した翼が高度の維持をできなくなったと見るや、しめたと胸の中で叫び、サブマシンガンを撃ち掛けた。
 マズルフラッシュで色付く視界の先で、たまらず翼を撃ち抜かれたカースドヒューマンの姿が踊る。そのまま畳み掛けようとして、直後、ぎらりと煌めいた敵の視線がこちらを真っ直ぐに据えるさまを認めた彼は、ぞっと勢いを殺ぐような寒気が体を貫くのを知覚した。
 仕掛けてくる。という直感が駆け抜け、分泌される興奮物質に感覚を拡大させらると、漆の鎧から飛び出すようにして放たれる無数の釘を視認する。火薬で撃ち出される銃弾と比べれば幾分か弾速の劣る射撃。───だが、それでも体を捻っての回避はぎりぎりと言えた。避けるか食らうかの一瞬だけ生きた心地を奪い去り、釘の掠めた脇腹にひりついた錯覚が通う。



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