過去ログ - モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12
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◆PupFZ5BZvyzZ
[sage saga]
2016/02/03(水) 22:27:39.36 ID:12lMyB4a0
見上げた鉛色の空を、朱色の光が横切った。イツキは首を動かし、朱色の動きを追う。獣人の動体視力は、舞台装置めいて空中を舞う女の姿を捉えていた。
猥褻存在が次々と繰り出す触腕は、女に届く前に空中で爆ぜ、灰となる。さらには黒い泥の本体らしき部位さえも次々と爆ぜ、黒ずんだ桃色の球体が露わとなった。
「……ハイイーッ!」
鋭いシャウトが遥か空高く飛ぶ猛禽めいて響き、女は投擲動作を終えていた。朱色の装飾剣が球体を砕き、黒い泥を焼き尽くした。
イツキは獣人特有の身体能力で姿勢制御、ウケミ回転により着地衝撃を極限に抑えた。すぐさま立ち上がろうとし、その場にへたり込んだ。
未知の敵への恐怖か、快楽の残渣か。彼女の下半身は未だに震え、力が入らぬ。正面に人影。イツキは顔を上げた。女が屈み込み、手を差し伸べていた。
猥褻存在を瞬く間に殲滅した、炎の能力者。その瞳に朱色の光は既になく、そして下着姿であったが、先ほどアケグチを討ったアイドルヒーローに違いなかった。
「プリミティヴ・バーニングダンサーです。間に合って良かった……けど、ヒーローじゃ……ない? ……あれ?」
バーニングダンサーを名乗ったアイドルヒーローは困惑しているように見えた。イツキは俯き、嗚咽した。もはや感情を抑えられそうになかった。
「……私は、ヒーローなんかじゃない……自分の身も守れないのに、民のために、王家のためになんて……これじゃ、エボニーレオにだって」
遅れてやってきた安堵、そして同時に突き付けられた己の無力に、イツキは打ちひしがれていた。目と鼻の奥が熱を帯び、視界が歪んだ。
一方のバーニングダンサー、洋子もまた動揺していた。どうやら己の言葉が、眼前の獣人の何かに引火してしまったらしい。こんな時にはどうしたら?
「……ごめんっ!」
今や眼前の獣人を形作るのは不穏に色数の多いマーブル模様であり、そして洋子は物事をあまり深く考えず直感的に行動する部類のヒーローであった。
洋子は獣人の女を抱き締め、マーブル模様の色数がいくらか減るまでそうしていた。ネオトーキョーのケミカル瘴気とは異質な匂いが心地よかった。
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