過去ログ - モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12
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773: ◆OJ5hxfM1Hu2U[sage saga]
2016/02/10(水) 16:32:21.99 ID:WON0jd3s0

 『あの日』から時を経て、能力者の存在はありふれたものとなっていた。
 能力ヤクザがキネシス抗争でストリートを赤く染め、能力ホームレスが能力万引きをはたらく。そうした能力犯罪者を追う警官も当然のごとく能力者である。
 かつてカートゥーンの中にしかあり得なかった光景は、日本において……無論、この暗黒経済都市ネオトーキョーにおいても今や日常の一部なのだ。

「それでは、用件を聞こうか」

 白熱灯が弱々しく照らす薄暗い廃ガレージの隅、屏風で区切られた二畳の仮設座敷。埃っぽい座布団の上に正座し、アイは切り出した。
 チャブ台を挟んで向かい合わせに座るのは、この廃ガレージの主にして今回の依頼者、野良ヒーローのセンジュカンノンだ。
 彼の目は血走っている。チャブ台の上で組んだ両手が震え、背中から生えた八本のサイバネアームが怒りを関知してカチカチと威圧的に鳴った。

「あの野郎、生意気にもサイバネ脚を増設しやがったんだ! 俺の許しも得ずに!」

 岩塊めいた顔は赤く、分厚い唇をわなわなと震わせ、センジュカンノンは言葉を絞り出す。

「こないだまではタコだったのにイカになりやがった。あの野郎ナメやがって」

「制裁か。どこまでやる?」

「……あんなクソ野郎でもたった一人の家族だ。懲らしめるだけでいい。サイバネ脚を三本、へし折ってやってくれ」

 意外にも慈悲。センジュカンノンが手元の端末を操作すると、電子的効果音と共に前払金がアイの端末に振り込まれた。
 額面は廃ガレージのみすぼらしさからいえば当然の端金ではあったが、依頼内容が比較的簡単なものである以上、断る理由にはなり得ない。

「いいだろう、最善を尽くそう」

 アイは依頼を承諾し、しめやかにガレージを退出した。
 ……『あの日』を経て変わったのは能力者周りだけではない。宇宙インベダーを始めとする邪悪存在も頻繁に現れ、競うように人類のテックが進歩を遂げた。
 環境の変化は、そこに生きる者達にも変化を強いた。能力者、テック者を問わず、数が増えれば淘汰が始まる。その流れに拍車を掛けるのがアイドルヒーロー同盟だ。
 カッコイイ・カワイイ・強いと理想の条件を揃えたアイドルヒーロー達は、以前の主流であった『男性』アイドルヒーロー達すら追いやりつつあった。
 ましてや組織の後ろ盾がなく、同盟にスカウトされるほどの実力もない野良ヒーロー達は、僅かばかり残された甘い汁を奪い合うばかりの現状。

(曲がりなりにもヒーロー同士だろうに、情けない)

 アイは内心呆れながらも依頼を断らない。彼女のような実力あるフリーランスにとって、野良ヒーローの小競り合いは良い小銭稼ぎなのだ。



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