13: ◆Freege5emM[saga]
2015/04/06(月) 22:43:01.71 ID:Busjx15yo
●16
ほたるちゃんは、ときどき自分のことを不幸だと嘆く口ぶりをしますが、
自分のことをどうしようもない不幸だとは信じていないはずです。
むしろ、不幸を認めたくないから、敢えて口に出すこともあるんです。
私も自分のことを幸運だ幸運だと口ではよく言っていますが、
じゃあ自分の幸運で全てどうにかなるもんだ、とは思っていないですもの。
何をやるにしてもついて回る幸運/不運なんてものに、
やることなすこと全て振り回されるなら――そう信じるなら、アイドルという厳しい世界には入りません。
もっとラクな道を適当に歩いて生きていけば、ほたるちゃんの運なりの人生になるじゃないですか。
ほたるちゃんは、そんなふてくされた生き方ができないようです。
彼女ぐらいキラキラしてると、自分が報われない時にも『人生諦めが肝心』
なんて開き直りが、できないんでしょうね。
「あなたの味を、教えて下さいますか? ほたるちゃん」
鏡の向こうのほたるちゃんは、いつの間にか半泣きになっていました。
私が、ここで脂汗の浮いたほたるちゃんのうなじを舐めて、甘いと言ってしまったら、
ほたるちゃんがこの事務所に入ってから今までのことが、一つの不幸として片付いてしまいます。
そうなってしまったら、このほたるちゃんは綿菓子のように溶けてしまうかも知れません。
「ねぇ、ほたるちゃん」
私は、ほたるちゃんを抱く腕に力を込めました。
こうしないと、本当にほたるちゃんがどこかへ消えてしまう錯覚がしたからです。
「ほたるちゃんが、私と一緒にいることを不幸だ――と思わないでいてくれるなら、
私の望みを聞いてくれませんか? 私は、あなたともっとこうしていたいんです」
ほたるちゃんの肩や腕から力が抜けるまで、私はずっとそのままにしていました。
どれだけの時間が経ったかは覚えていません。
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