過去ログ - 長門「ユッキー……私の事を呼ぶならそう呼んで」
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4:名無しNIPPER[saga]
2015/05/17(日) 22:56:03.90 ID:Flc7T4o40


うんともすんともおうとも言わない。
自己紹介の文句を逡巡しているにしてはいささか長すぎる沈黙に、教室中戸惑った視線を交し合う。
秒針が一周するあたりで、さすがに俺も振り返った。

清楚な少女がそこに居た。

シャギーを入れ顎辺りでそろえた短髪に、端正な顔に張った氷のような無表情。
軽く結ばれた口元は意志の強さと言うより無感動さを思わせる。
細身の眼鏡の奥には底知れぬ瞳が鎮座ましまして、肌は雪のように白く、
温暖地帯に辛うじて発生した芯のないツララのように、触ると折れてしまいそうな危うい雰囲気を漂わせていた。



「……」



教師に何事か促されても、彼女は上下の唇をぴったりくっつけたままだ。
ぴんと背筋を伸ばしたまま、無言のまま、一心に前だけを見据えている。
ポーズ状態の彼女に、周りの視線も訝しげなものから不安なものへと変わり、さっきまで何となくぬるまっていた空気はじょじょに冷えていきつつあった。
それでも瞬き以外はしないところを見ると、度を越えた内気か、度を越えた無口か。
後者かな。
まじまじと見すぎたか、彼女の視線が不意に下がって俺の視線とばっちり合った。
刹那、彼女の右手がすと持ち上がる。
なんだなんだと思わず身構えた俺から、何事もなかったかのように視線を外し、彼女は眼鏡の縁に触れた。と同時に初めて口を開いた。



「……長門有希」



恐ろしく平坦な声。
待ち望んでいたはずなのに、彼女の声が落とされた途端、教室はぴしりと音を立てて瞬間冷凍された。
長門有希はいささかも動揺することなく席に腰を落とす。
紹介、終わりかよ。
新品の定規で引いたかのようにまっすぐな視線とまたかち合ってしまい、俺は慌てて目を逸らした。

こうして俺たちは出会っちまった。
つくづく思いたい、偶然であると。




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