422:名無しNIPPER[saga]
2015/08/10(月) 09:52:34.46 ID:dDnsREuDO
そんな自分を彼から遠ざけるように、カレンは一歩後ずさった。良くない傾向だ。
租界の中では"病弱なお嬢様"のスイッチを入れやすいのと同様に、このゲットーではもう一つの顔──本性の方が出てきやすい。傍らにいるのがライというのも、それに拍車をかけていた。
仄暗い激情が出てくる前に目を閉じ、静かに深く息を吸う。思考を切り替え、今日の目的を再確認。息を吐き、目を開けた時には冷静さを取り戻していた。
「…………」
ライはこちらの様子に関心がないのか、静かに街を見下ろしている。その背中はいつも通り、空虚でどこか頼りない。今にも消えてしまいそうだった。
いや、いつもと違う部分がある。彼ではなく、その周辺だ。
違和感が無いのだ。租界にいる時につきまとう、妙な異物感が無い。寂れた廃墟が、命を失った街の風景が、彼という存在を受け入れている。
まるで"初めからここにいた"ようだと思った。それほど自然な光景だった。
銀色の髪に蒼い瞳、白い肌。いずれも日本人の特徴ではない。だが、この感覚は確かなものに思えた。自信さえ湧き出てくるほどに。
考えれば、その理由を説明することは容易かった。ライもゲットーも、大切な物を失っているという点では同じなのだ。
空っぽの街に、空っぽの背中。溶け合うのはとても自然で、当たり前の事のように思える。
気づけば、カレンは口を開いていた。
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