75: ◆D04V/hGKfE[saga]
2015/06/17(水) 00:27:27.95 ID:bJtf1eDj0
職員室から歩いて間も無く、目的の場所は見えてくる。
保健室は奉仕部の部室と同じ特別棟に設置されている。
廊下にいても、保健室独特の消毒液の匂いが鼻についた。
由比ヶ浜が扉を控えめにノックをして、中の人間に対して入室の意を告げる。
しかし、こんこんという軽い音が響いたきり、何も返答はない。
由比ヶ浜がやや困ったように、意見を求めてくる。
「どうしよっか? 寝ちゃってるのかな?」
その可能性は大いにあり得る。体調が悪い人間がやることは寝ることくらいしかないはずだ。
もしくは本を読んだり、携帯ゲームをしたり……これって普段の俺じゃないの?
つまり逆説的に、俺は常に体調が悪いと言える。だからもっと労ってくれ。
「静かに入れば大丈夫だろ。そーっとな」
「うん。そーっとね」
由比ヶ浜と目配せして、そろそろとゆっくり扉を開けて室内に入った。
保健室内は養護教諭が気を利かせてか、かなり暖かい空気に満ち溢れている。
冷え冷えとした廊下との温度差からか、ここは立っているだけでふわりと暖かい布団に包まれているようだ。
入って左側にベッドが並べられているのだが、その一番奥のカーテンだけが閉ざされているのがわかった。
そこにそろりと足音を忍ばせ近づくと、漏れるような規則的な呼吸音が耳に届く。
『やっぱり寝てるみたいだね』
『だな。起こすのも悪いから、起きるの待って挨拶して帰るか』
『そうだねー』
起こさぬよう小声で密談をすると、由比ヶ浜の顔がすぐ近くに見えた。
それは、ここで雪ノ下から治療を受けたあの時間を思い起こさせるような、息が顔をくすぐるような近さだった。
ふい、と顔を背けて誤魔化し手近な椅子を手繰り寄せて腰掛け、文庫本を開いた。
由比ヶ浜もそれに倣ってか、空いている椅子を持ってきて左隣に腰を掛けた。
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