過去ログ - 八幡「贈り物には想いを込めて」
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83: ◆D04V/hGKfE[saga]
2015/06/17(水) 01:06:58.04 ID:bJtf1eDj0
暫時心ここに在らず状態の俺の顔の前に、いつの間にか綺麗な包装紙に包まれた箱が差し出されていた。
その元を辿れば、雪ノ下が穏やかに微笑みを浮かべている。

「そうね、比企谷くんは本当に幸せものね。私からチョコレートが貰えるのだもの」

「……俺に?」

声が詰まる。
まったく期待していなかったと言えば嘘になる。期待するのは怖いことなのに、可能性を捨てきれなかった。
だから、つい素直に受け取れなかった。
そんな卑屈さに呆れたような、それでいて優しさに満ちた声が、狭い室内にこだまする。

「せっかくあなたのために作ってきたのだから、素直に受け取りなさい。……それとも迷惑、だったかしら?」

「迷惑、なんかじゃない」

「え……?」

自分でも驚くほど芯の通った声が出た。
常とは違う様子に、雪ノ下は僅かばかりに戸惑いの声を漏らした。こちらをじっと見据えてくる。

手はベッドの上に両手を揃えて置かれており、答えを聞く体勢は整っていることを知らせているようだった。
俺は先ほどの言葉をそのまま繰り返す。

「迷惑なわけあるかよ」

今まで、人から色々な気持ちを向けられることがあった。
蔑視され、嘲弄され、軽侮され、卑しまれ、語ればきりがない。

悪意の奔流に流されぬよう、自己という杭を地面に突き刺し必死に耐えていたと思う。

俺は俺なりに考えて、選んで、そうして生きてきた。
その生きてきた結果として、向けられた悪意に屈してしまったら?
俺は今までの自分を否定することになる。
自己否定。それがたまらなく嫌だ。とてつもない屈辱だ。
自分が自分を肯定してやらないなんて間違っている。

そんな負の感情にまみれた俺に、今日だけでどれだけ暖かな感情が向けられただろうか。

曰く、バレンタインは異性に親愛の情を伝える日だという。
親愛の情。辞書通りならば、親しい人を大切に想う気持ちのことだ。

そんな気持ちを向けられて、迷惑だなんて思えるはずがなかった。


「あんまこういうの慣れてないから……まぁ慣れててもうまく言える気がしないけど、その、あ、ありがとう」


どんどん自信を失くして小さくなっていく声で何とか言いきった。
俯いて顔を見られないように、がしがしと側頭部を掻いて誤魔化す。
こんな簡単なお礼の言葉を伝えるのにこんなに勇気がいるとは、告白とかしたら死んじゃうんじゃないの俺?

くす、と小さな笑みが零れた気がした。



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