過去ログ - 水嶋咲「クロスドレス」
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7: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/06/18(木) 23:27:46.98 ID:jPdfGr6q0


03.


「しっかし美味えなここのビーフシテューはよお! 流石は神谷兄さんだぜ!」

「それは嬉しいね、ありがとう」

「シチューって言えてねえぞ。あとボリューム下げろ」

「いや、構わないよ。賑やかでいい事だ」

ディナーを食べに来た神速一魂の二人を影からこそこそと覗く、あたしとロール。
二人は閉店後の店の中で談笑(?)しながら神谷に夕飯を振舞われている。
蛇足だけど、あのビーフシチューを作ったのはアスランだ。

「彼が例の黒野くん?」

「うん……」

「大きいねー、ああいうのをワイルドって言うのかな」

ロールもちょっとはワイルドさを身につけた方がいいんじゃないかな、と言い掛けて止まる。
あたしの言えたセリフじゃないよね。

「でも、サキちゃんを好きになったっていう黒野くんの気持ちも、ちょっとはわかるかも」

「え?」

「サキちゃん、可愛いもんね」

ロールがマダム殺しの笑顔を浮かべる。
思わず、その笑顔に心がざわついた。
ロールは美形なんだけど、スイーツの怨霊に取り憑かれていると言えるほどのお菓子好きなせいで、自分に無頓着なところがある。
なんと言うか、その邪推のしようがない天真爛漫な好意は、受けていてとても気持ちがいい。

「あ、ありがと……」

……あたしが女の子だったら、ロールのことを好きになっていたかも知れない。

「でも、やっぱり好きな人とは一緒にいたいよね」

「ロール……」

「神谷兄さん、お代わり貰えますか! あとライスとツナ缶も!」

「ツナ缶?」

「せっかく神谷兄さんの店に来たんだ。にゃこにも食わせてやりてぇんですよ」

「俺には濃いめのホットコーヒーを大きなサイズでいただけますか」

「いいよ、ちょっと待っててくれ」

神谷が戻って来る。

あたしたちの存在には気付いていたようで、こちらを一瞥してウィンクなんて寄越してくれた。
神谷にも事情は話してある。
その時は、珍しく真面目な表情で考え込んでいたけれど、そうか、とだけ言ってそれ以降は何も言ってこなかった。

神谷はどう思っているんだろう。

下手をしたらカフェパレも巻き込んでしまう事態だ。

「お待たせ。ビーフシチュー大盛りとライスにツナ缶、コーヒーだよ」

「あざッス!」

ここが喫茶店なんて事は一切気に留めず、シチューにがっつく紅井くん(とにゃこちゃん)。
飲食店に動物はどうなのかとも思うけれど、他のお客さんはいないし、神谷がいいならいいのだろう。
アスランはああ見えてコックとしての腕は超がつく一流で、あのシチューも絶品だ。
あれだけ美味しそうに食べるのを見ると、こっちまでお腹が空いてくる。



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