過去ログ - 奉仕部の三人は居場所について考える
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:42:25.99 ID:KG8R2sxio
お互い話を切り出すタイミングを窺いながら淡い陽光の中を歩いていると、不意に由比ヶ浜が口を開いた。
「ゆきのんさ、出るんだね。選挙」
「ああ」
3:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:43:57.39 ID:KG8R2sxio
だから、それに肉付けをするように理屈を、論理を、合理性を重ねて取り繕い、俺の意思とする。さっきそうして雪ノ下に反対をしたばかりだ。
いや、明確な反対の意思は伝えていないに等しい。なんとかして対案を挙げようとしていただけだ。
先ほどの俺は否定できるだけの十分な理由を自分の中に見つけられなかった。だから俺が最初に抱えた、自分でも言葉にし難い拒絶反応は何も伝えられていない。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:45:34.71 ID:KG8R2sxio
ならば、頭での理解より先に訪れたものが、俺のどこから来たものなのか考えねばならない。
それはきっと、感情というものだ。そのぐらいはいくらなんでも、俺にでもわかる。
ここで考えなければならないのはそれよりも前。その感情が、俺のどういった思いから発せられたのかだ。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:46:51.67 ID:KG8R2sxio
こいつがこんな風に思うのは、きっと俺たちが悪いのだ。
不器用だから。照れ臭いから。恥ずかしいから。すべて自分可愛さの、偏狭な自己愛の成れ果ての言い訳。そんなくだらないことで、由比ヶ浜にきちんとした言葉を伝えていないからだ。
俺は否定しなければならない。事実、そんなことはないのだから。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:48:34.28 ID:KG8R2sxio
「違わないよ。あたし、あの部活でなにもできてないもん。だから……」
弱々しく話す由比ヶ浜の目尻には涙が浮かんでいた。
否定しないと。俺の知っている、俺の期待している、俺の居心地のいい奉仕部の光景には由比ヶ浜が必ずいる。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:50:12.12 ID:KG8R2sxio
俺の言葉は、願望はまだ、届いていない。そして由比ヶ浜は理解した上で言っている。生徒会長になれば自分が奉仕部に行けなくなる可能性を。
考えろ。俺が今そこにいる由比ヶ浜に、生徒会長になってほしくない理由を。
「…………俺は今までお前らのことも、自分のこともよく考えずに勝手にやってきたから、また勝手に言わせてもらう。それはやめてくれ由比ヶ浜。お願いだ」
8:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:51:23.62 ID:KG8R2sxio
自分の言葉にハッとなる。
そうだ。俺は彼女たちの犠牲が、悲しむ姿が見たくないのだ。たったそれだけの話なんだ。
きっと由比ヶ浜は選挙に当選すれば立派な生徒会長になる。由比ヶ浜は誰よりも素敵な女の子だ。みんなにも慕われる。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:52:29.32 ID:KG8R2sxio
こんなにも素敵な女の子に、そんな思いをさせることをわかっていてじっとできるほど、俺は無関心じゃないし鈍感でもない。
由比ヶ浜がこう決意せざるを得ないほどに追い込まれているのは俺のせいだ。今回の依頼に対して、俺にできることがあまりにもないのだ。
雪ノ下にも言われたが、応援演説で一色を不信任にすることがどれだけ非現実的なのかは自分でも理解している。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:53:56.28 ID:KG8R2sxio
雪ノ下が生徒会長になり、生徒会から奉仕部に来れなくなるのであれば。
俺たちもそこに行くことができるなら、それは三人の居場所に成り得るのではないか。
「でも、今回は……なにも失わずに守るのは無理だよ……」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:55:27.73 ID:KG8R2sxio
「あ、いや、えっと。その……」
自分のことを言われているわけがないのに、こんなときにまでその言葉に反応してしどろもどろになってしまった。慌てて話を続ける。
「好きなのは、その、なんとなくわかってる。けどそれは奉仕部ってわけじゃないだろ。例えば、仮に雪ノ下と俺がいなくてもお前は奉仕部を守るのか」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/29(月) 21:57:26.67 ID:KG8R2sxio
俺はそう望んでいない。由比ヶ浜もそうであってほしい、そうであってくれとささやかな祈りを込めて話す。
「ううん、そんなことない。そんなの、やだし。先のことなんてわかんないけど、卒業してもずっと一緒がいい……」
「それならなおさら、奉仕部にこだわることなんかねぇだろ。守るべきなのはあの場所じゃない、この繋がりだ」
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