過去ログ - 紬「桜の樹の下の彼女」
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9:名無しNIPPER[sage saga]
2015/07/17(金) 17:04:58.68 ID:2FTYkEm5o

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「他に好きな子が出来たんだ」と、彼女は言った。
私はショックを受け、言い返した。


「ウソね」

「マジだって」

「それもウソね」

「なんでそう思うんだよ」

「りっちゃんは優しいから」

「……あー、やっぱわかるかー」

「うん」

「……ゴメンな、ムギ」

「ううん、私のほうこそ」


彼女が謝る必要は全く無かった。原因は私なのだから。
その原因を隠せなかったこと、私の悩みが彼女に伝播してしまったこと、彼女に演技をさせてしまったこと、それらはショックだったが。
それでも、彼女が謝る必要は全く無かったのだ。


「ムギのことは大好きだよ。愛してる。でも、ムギの進む道に、私はいないほうがいい……」

「そんなこと……」

「ご両親の会社で働くんだろ?」

「……うん。今まで7年間、好き勝手させてもらったから。親に全部返すつもりで働こうと思う」

「だったら、私の存在はデメリットしかないよ。私と別れて、例えばどっかの金持ちのボンボンでも引っ掛けた方が、きっと、ムギの目的には……」

「で、でも、私、りっちゃんがいてくれないと…!」

「友達としてなら……」

「やだ!」

「わかってくれよ。ムギの足を引っ張りたくないんだよ……対等な存在で居たかったんだ、私は……」


デメリット。
そんな言葉を持ち出す彼女も、それを否定しきれず逃げ道を探していた私も、同じくらいに悩み疲れていたのだろう。
私だって、彼女と居られなくなるくらいなら自分の道を諦めよう、と思ったことは何度もある。彼女が私と別れて背を押す道を選んだように。
何かを諦めなければいけないと、それしか結論が出ない位に、私達は悩み疲れていた。
それでもきっと私達は、同じくらい諦めも悪かったのだ。


「絶対に嫌!りっちゃんがいてくれない世界なんて!」

「……世界、か。じゃあムギ、こういうのはどうだ?」

「えっ?」

「……この世界に、最初っから私なんていなかった、としたら、さ……」


それだけ言って、諦めの悪い彼女は笑顔で、前提から全てひっくり返したのだ。
自らの手で。



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