129: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:56:01.98 ID:s8phhYh5O
「私は、頃合いを見てまた迎えに来るとしよう。それでは、頼んだよ!」
社長はそう云い残し、左腕を大きく振って去って行く。
年甲斐の無い大はしゃぎっぷりを見て、防音扉がガチャンと重い音を立てると同時に、
130: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:56:53.67 ID:s8phhYh5O
「こう云うレッスンスタジオに入るのって初めて〜。なんだかワクワクするな〜!」
桃色のジャージを勢い良く脱ぎ、パイプ椅子の背へ放り投げた未央が、黄色いリボンタイを緩めて息を弾ませた。
131: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:57:24.36 ID:s8phhYh5O
凛は、自らの背中の向こうで交わされる会話に、心の中で、なるほどね、と呟いた。
先程の、『アイドルになりたい』と云う卯月の熱意ある言葉に、合点がいったのだ。
「へぇ、卯月は経験者なんだね」
132: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:57:59.04 ID:s8phhYh5O
面と向かってはっきりと云われるのは、凛にとって、とても気恥ずかしかった。
これまでずっと、似たようなことは云われてきたが、決まって邪な色が言葉に込められていたものだ。
しかし彼女から感じられるのは、美しいものをそのまま美しいと云う、素直な溜息だった。
133: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:58:28.71 ID:s8phhYh5O
更衣室から出てピアノの前に集合した三人に、麗が尋ねる。
「えーと、島村君に、渋谷君に、本田君だな。君たちはソルフェージュを触ったことはあるか?
島村君は養成所の経験があるようだから兎も角、私の記憶が正しければ、皆小学生の頃にやっているはずだが」
134: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:59:02.17 ID:s8phhYh5O
ただし卯月以外の二人は、
「正直に云えば、あまりよく憶えてませんけど……」
「あはは〜……わ、私も〜」
135: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:59:54.97 ID:s8phhYh5O
まず麗がお手本のラインを鳴らし、二回目のループで三人が併せて歌う。
軽快なテンポで、ステップを踏むようにフレーズが流れていく。
右手は軽妙かつ爽快なメロディ、左手はノリよく小刻みに揺れる伴奏。場を包む音は、ラグタイムだ。
136: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:00:29.73 ID:s8phhYh5O
中でも卯月は、さすが養成所に通っているだけあって、
安定してフレーズを追随出来ており、三人の中では特に良く通る声が出ていた。
しかし凛と未央の二人は、一般人と何ら変わらない普通の女子高生。
137: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:01:24.27 ID:s8phhYh5O
「なに、今は上手くやろうと気張る必要はない。リズムに乗って、喉ではなく身体から声を出してみよう。
それがとても楽しいことなのだ、と感じてくれればそれでいい。誰しも最初は初心者だ、恥ずかしがらずにな」
再び麗がピアノを弾く。今度は更に軽快でうきうきするような雰囲気が感じられた。
138: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:01:58.66 ID:s8phhYh5O
ラグタイムで弾いていたフレーズが、今度はカントリーミュージックの潮流となって麗を動かした。
その美麗な動きに、凛や未央は勿論のこと、卯月も口を開けて惚けている。
麗は若干苦笑しつつ、「さあ、みんな一緒にやってみよう」と促す。
139: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:02:32.10 ID:s8phhYh5O
リズムに合わせて足踏みを入れたり、腕を振ってみたり。
身体をひねり回したり、飛び跳ねたり、片足を軸に回転したり。
そのまま、様々な曲に合わせて、麗は色々な情景を、声で、身体で、表現する。
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