272: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:52:09.16 ID:s8phhYh5O
「普通って何、普通って!? 私にとっては……この自分が普通なのに……!」
拳を握って、身体を震わせる。
確かに、Pが社長から渡された彼女に関する書類の注記欄には、無愛想を考慮すべきこととして挙げられていた。
273: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:52:43.37 ID:s8phhYh5O
凛の覇気が急速にしぼんだことで、Pはやや冷静さを取り戻した。
そしてようやく、目の前で弱々しい瞳が揺れている事実に気付いた。
アイドルは偶像で、商品であることに疑いの余地はあるまい。
274: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:53:33.04 ID:s8phhYh5O
Pのボルテージが下がり、凛も自分のしでかしたことを認識しつつある。
「……私も行く」
「いや、凛はもう帰ってゆっくりしとけ。明日もレッスンあるしな」
275: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:53:59.16 ID:s8phhYh5O
末端を伸び伸びと気持ちよく働かせ、万が一の際には先頭へ出て詫びる。
それこそが管理を負う者の務めと云うもの。
「だからって――」
276: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:54:45.72 ID:s8phhYh5O
――
「申し訳ありません。先輩の顔に泥を塗るようなことをしてしまって」
277: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:55:18.32 ID:s8phhYh5O
そんな一見ロマンチックな場所で、くたびれた背広姿の男二人が、
スターベックスからテイクアウトしたコーヒーを片手に気の滅入る話をしているのは、些か妙な光景だった。
平日だから一般客の利用者はそこまで多くないとはいえ――
たまたまこのタイミングにかち合ったカップルたちには、奇異に映るに違いない。
278: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:55:47.63 ID:s8phhYh5O
「やっぱり、そうなりますかね……あのクールビューティさは、中々の逸材だと思うんですが……」
「いや、そりゃ確かに先方からはキレイな娘、って要望があったけどさ、笑顔を出せないんじゃ話にならんだろ」
二度ほどカップを傾けて嘆息してから、大嶋は本音を隠すことなく云った。
279: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:56:13.32 ID:s8phhYh5O
不満の捌け口として、一言でも『新人アイドル』に文句を投げたくなる気持ちはわかる。
ただひたすらにPは平身低頭した。
「担当アイドルの不始末は、即ち全て自分の不始末であり責任ですので……」
280: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:56:42.25 ID:s8phhYh5O
やがて、大嶋はガラスの向こうに広がる夜景へ目を向ける。
その光の海は一見変化に乏しいようで、その実、灯りの下では幾千幾万の人間像がうごめいているのだろう。
二匹の蟻がどんなに嘆こうとも、意思とは関係なく社会と地球は動いているし、明日がやってくるのだ。
281: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:57:09.35 ID:s8phhYh5O
中間管理職なんてなるもんじゃねえや、と小さく笑い、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。
「クールビューティ、ね。確かに武器にはなるかも知れんが、まぁ……今回はお前の采配ミスだな」
「はい、その通りです。申し訳ありません」
282: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:57:50.63 ID:s8phhYh5O
港区ベイエリア、汐留再開発地区の目の前に位置する浜離宮恩賜庭園は、この時間は門が閉められている。
わざわざそんなところに用事のある人間などいるわけがなく、都心のど真ん中にありながら喧噪とは無縁だ。
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